「女の子は停車したタイミングで立ち上がると、男性のところへ歩いてき『はい!』と小さな手に握りしめていたラムネを差し出したんですよ」
あれだけ怒鳴り続けていた男性に、まっすぐ近づいていく女の子。車内の何人かは「危ない」と思ったのか、思わず目で追っていたそう。
男性自身も予想外だったのか、一瞬ぽかんと固まっていたといいます。
「すると女の子は『おじいちゃん、これシュワシュワして楽しいから食べてみて』と満面の笑みで話しかけはじめて、私は思わず吹き出しそうになりました」

あまりにも無邪気で、場違いなほど明るい声。けれど、その一言で車内の空気がふっと緩んだのを、綾子さんは感じたそう。
「男性は、急に周囲の視線を気にしたように咳払いをすると『あ、ありがとう』と、小さな声で恥ずかしそうにラムネを受け取ったんですよね」
さっきまであれほど大声で怒鳴っていた人とは思えない、別人のような態度だったそう。
そして不思議なことに、そのあと男性はピタッと静かになりました。ぶつぶつ文句を言うこともなく、窓の外を見ながら黙って座っていたといいます。
しかも次の停留所で降りる時には、運転手さんに「どうも」と声をかけて降りていきました。