「するとその女性は、笑顔で『あと、電車の中でやるのは危ないです。揺れるので、周りの人にもぶつかってしまいますし』と続けました。優しい言い方なのに、不思議とどっしりとした説得力があったんですよ」
怒ったり責めたりするのではなく、本当に相手の身体を心配しているような、落ち着いた話し方だったそう。

画像はイメージです(以下同)
そのせいか、車内の空気も不思議とギスギスせず、むしろ「よく言ってくれた」という安心感のようなものが広がっていきました。
ストレッチをしている女性は少し気まずそうに「やだ、そうなんですか?」と聞き返しました。
注意した女性は穏やかにうなずきながら「はい。腰をひねるなら、骨盤を固定した方がいいんです」と説明。さらに、周りを見て、狭い車内でもできる程度に軽く姿勢を見せながら、「こういう感じで、ゆっくり。お家でやってみてください」と丁寧に動きを教えたそうです。
「その動きには無駄がなく、とても綺麗だったので私はつい見入ってしまったんですよね」
周囲の乗客たちも、いつの間にか静かにそのやり取りを見守っていました。
すると麻美さんの横にいた男性が、一緒にいた女性に小声で「たぶん、インストラクターさんとかなんじゃない?」とつぶやいたそう。
すると女性は少し照れたように笑い「ヨガ講師なんです」と頭を下げました。

そのやり取りを聞いていたのか、周囲の何人かが微笑んだそう。
「さっきまで周囲にぶつかりまくっていたストレッチをしている女性も『教えてくれてありがとう。それと、ごめんなさい』と周りの人たちにぺこぺこ頭を下げ、大人しく吊り革につかまり直していましたね」
ほんの数分前までピリついていた空気が、気づけばすっかり和らいでいました。
その様子を見ながら、麻美さんは心の中で感心してしまったそう。
「次の駅で降りていったヨガ講師の女性が、最後まで品のある雰囲気で素敵だったので……私もその日の晩、女性が説明していたストレッチをやってみてしまいました。結構気持ちよくてクセになりそうです」と微笑む麻美さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>