近年、クマが市街地や住宅地に出没するニュースが相次ぎ、野生動物と人との距離のあり方が、身近な問題としてあらためて注目されています。クマの出没にはさまざまな要因がありますが、野生動物を人に慣れさせない、人の食べ物を覚えさせないことも、人と動物との適切な距離を保つうえで大切です。

道路を横断するニホンツキノワグマ
人との適切な距離を保つ必要があるのは、小動物も同じです。リスへの餌付けは、一見すると小さな親切のように思えるかもしれません。しかし、野生動物が「人間の近くへ行けば食べ物がもらえる」と覚えてしまうと、人への警戒心が薄れたり、人の食べ物に依存したりするなど、本来の行動に影響を及ぼすことがあります。こうした餌付けが繰り返されることで、人と野生動物との適切な距離が崩れてしまうことも。
動物の種類や地域によっては、人慣れした野生動物が人里に出没し、人身被害や農作物被害などのトラブルにつながることも。中には、駆除という悲しい結末を迎えるケースもあります。軽い気持ちで与えたひと口のお菓子が、野生動物にとって思わぬ問題のきっかけになってしまうことがあるのです。
また、餌付けは動物だけでなく、人間側にもリスクがあります。野生動物との不用意な接触は、人獣共通感染症などのリスクにもつながります。環境省も、感染症予防の観点から野外での野生動物との接触を避けるよう呼びかけています。
野生動物への餌付けは、「かわいいから」という気持ちだけでしていいものではありません。前出の親子を注意した登山者の言葉には、動物を守ることはもちろん、人と野生動物が適切な距離を保ち、登山者や地域で暮らす人たちの安全も守りたいという思いが込められていたのではないでしょうか。

山でのマナーは、単に自然環境や野生動物を守るためだけのものではなく、人と野生動物が適切な距離を保ち、登山者や地域で暮らす人たちの安全を守ることにもつながっています。一人ひとりの小さな行動が、豊かな自然を守り、安心して山を楽しめる未来へとつながっていくのではないでしょうか。
<文・イラスト/鈴木詩子>