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『Tシャツが乾くまで』咲子が離婚を切り出したワケ。バツ4の妻が抱える「素の自分を見せ続ける恐怖」

充との結婚生活は「罪滅ぼし」

 それでは、なぜ充とは長続きしているのか。友人の結婚式で親への感謝の手紙を読み上げるシーンで退席するほど、咲子は“親子愛”に忌避感のようなものを抱いており、充がそこに共感してくれることに強い感動を覚えていた。
 好きなものよりも嫌いなものが一緒のほうが安定した関係を築ける、というケースは珍しくない。加えて、充が穏やかな人柄であることも影響したのかもしれない。しかし、それだけではないように感じる。  咲子はバツ4という過去を充に隠しており、“そのことを伝えずに結婚生活を送ってくれている充に対する罪悪感”こそが、咲子が結婚生活を続けられた一番の要因のように思う。つまりは咲子にとって充との結婚生活は、幸せな時間であるのと同時に、バツ4を黙っていることへの“罪滅ぼし”のような側面を持っていたのではないか。  隠し事をしている後ろめたさがあるからこそ、咲子はいつも以上に誠実であろうとし、逃げ出さずに「どうすれば関係を続けられるのか?」に向き合ってきた。それが結果的に、これまでで最も長い結婚生活につながったのではないか。

2人の未来は地獄になるのか

 ただ、この均衡は充にバツ4を打ち明けたことで崩れ去る。咲子にとっては「秘密がバレたらどうしよう」という居心地の悪さは解消され、一見追い風のように思える。実際、2人が秘密を共有して以降は、“一応は”空気感は穏やかになった。  とはいえ先述した通り、咲子には根本的な自信のなさがある。結婚相手に素の自分をさらけ出し、さらには受け入れてもらった状態は、はたから見れば素晴らしい関係性に感じる。  しかし、恋愛経験が乏しく、そういった関係性を築いた経験がない人、もしくは自分に自信がない人にとっては、「いつか見限られてしまうかもしれない」という新たな恐怖と付き合っていかなければいけないことを意味する。  咲子にとって今後の充との結婚生活は、ありのままの自分を見せ続けなければいけない“地獄”が待っていると悟り、その未来に耐えかねて離婚という逃げ道を初めて自分から提案したのではないか。結局のところ、咲子にとっては「嘘を抱えている」という居心地の悪い関係のほうが居心地が良かったのかもしれない。
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