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25歳と22歳。この2人の女性ミュージシャンは天才かもしれない

 来日した海外のアーティストが日本のファンの印象について訊ねられると、こんな風に答える場面によく出くわします。 「日本のファンは真剣に音楽を聴いてくれるから最高だよ」とか、「アーティストをとってもリスペクトしてくれるの」とか。  それがリップサービスであることを差し引いても、まったくのお世辞だというわけでもなさそうです。演者に敬意を表し、言われなくてもじっと音楽に耳を傾け、なるべく作り手を称えるように心がける日本の音楽ファンは、ミュージシャンにとってありがたい存在だと言えるかもしれません。

聴き手の首根っこをつかむようなパラモア

 しかし、ややもするとそんな良心的な聴き手が音楽から力を奪うことになりはしないだろうか。海外のヒットチャートを眺めていると、そんな考えが頭をよぎります。特に今年前半の大ヒット曲であるパラモアの「Ain’t it fun」を耳にしたとき、その思いを強くしたのでした。 ⇒【YouTube】Paramore:Ain’t It Fun[OFFICIAL VIDEO] http://youtu.be/EFEmTsfFL5A  この、聴き手の首根っこをつかんで壁に叩きつけるような迫力を、どうしても良心と善意の存在を前提に考えることができないのです。無理解で無関心な他者を、いかにして巻き込んでいくか。無数の人間が抱く勝手な欲求をひとまとめにする力のある楽曲をポップスと呼ぶのであれば、それは繊細な職人技とそれを好意的に解釈する聴き手との親密な関係からはなかなか生まれにくいのではないか。 ヘイリー・ウィリアムス と、込み入った話はさておき、バンドのボーカリストであるヘイリー・ウィリアムス(25歳)はセンスと才能の塊のような人です。曲名に続くサビのフレーズ<Living in the real world>と歌うときの符割は、少し常軌を逸しています。文字を見て音読することを考えた際に、誰も思いつかないような音節の処理の仕方です。理屈をこねまわしてそうなっているのではなく、反射神経の鋭さとしてあらわれていることが彼女のすごさなのだと思います。  少しハネ気味の軽快なリズムに80年代のヒット曲を思わせる甘酸っぱいメロディ。その一方でサウンドはチューニングを落としたヘヴィなギターにチョッパーベースがブンブン鳴って、ドラムも全体重がスイートスポットをめがけている。実に筋骨隆々としています。  言ってみれば確実にヒットを狙いに行くために構成された楽曲なのですが、だからこそ演者の資質が厳しく問われるのだとも言えそうです。鉈でかち割るような迫力に説得力を持たせるだけの体力と運動能力と覇気があるのかどうか。「Ain’t it fun」で、ヘイリー・ウィリアムスはそのテストを見事にパスしたと言えそうです。 ⇒【YouTube】Paramore:Last Hope(LIVE) http://youtu.be/XoYu7K6Ywkg

ゆるく気だるい迫力、チャーリーXCX

 とは言っても、ヘイリー・ウィリアムスのようなスペシャルな存在はそうそう多くはいません。インパクトの与え方は何も正面突破だけではない。ゆるく気だるいやり方もあるのではないか。そのヒントを与えてくれそうなのが、イギリス出身22歳のシンガーソングライター、チャーリーXCXの「Boom clap」でした。世界的大ヒットとなったアイコナ・ポップの「I love it」は、彼女の作品です。 ⇒【YouTube】The Fault In Our Stars I Charli XCX‐‐Boom Clap‐‐Live at The Fault In Our Stars Live Stream Event http://youtu.be/1DLO52AK7ig  パッと見て「Royals」の大ヒットが記憶に新しいロードを思い出す人もいそうですが、この曲はロードよりもとっつきやすいかもしれません。80年代のエレポップを下敷きにしたチープな音色でありながら、曲に漂う哀愁は本物です。  歌詞の内容はほとんど西野カナあたりと変わりのないものですが、言葉のメロディへの乗り方が素晴らしい。キャッチーな曲の作り方を知り尽くしているのではないかとさえ思わせます。  少し舌足らずのチャーリーXCXが一生懸命に早口になるたどたどしさも、音楽への程良い味付けになっています。  これもやはり理屈やこだわりを超えて訴えかける迫力の一つの形だと言えるでしょうか。1950年代の大ヒット曲「Da doo ron ron」について、フランク・ザッパは次のように語りました。 「一体、この歌詞にどういう意味がある? でも立派な曲であることに違いないんだ」(『インスピレーション』 ポール・ゾロ著 丸山京子訳) 「Ain’t it fun」、「Boom clap」に共通するのは、この“立派な曲である”と聴き手を納得させてしまう力なのではないでしょうか。 ⇒【YouTube】Charli XCX‐SuperLove(Official Video) http://youtu.be/pPWcX-16A9Y <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
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