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木村カエラの「Today is A New Day」がカッコいい!その“うまい”以上の才能とは

 今年でデビュー10周年を迎える木村カエラのニューシングル「Today is A New Day」が10月22日にリリースされました。プライベートレーベルの設立に、10月25、26日には横浜アリーナで記念公演も開催されるなど、その勢いはまだまだ衰えない様子。 Today is A New Day

ごまかさないでクリアに発音する

 さて肝心の楽曲ですが、前作「OLE!OH!」のエレポップ路線からは一転してハードなロック。歯切れのよいコードカッティングから、サビでたっぷりと歪ませたエレキギターがサウンドのメインとなっていますが、歌メロはきわめてポップ。  英語詞で歌われる細かな符割のヴァースと、対照的に横に大きなメロディのコーラスがメリハリを利かせています。  速いテンポとハードなサウンドに、ほんの少しの哀愁が漂うメロディアスな楽曲となるとメロコアやエモコアといったワードが浮かんできます。木村カエラがデビューした10年ほど前に、ちょうど全盛期を迎えていた音楽のジャンルですね。そう考えると「Today is A New Day」はなかなか心憎い一曲のように思えてきます。 ⇒【YouTube】木村カエラ‐「TODAY IS A NEW DAY」Music Video http://youtu.be/JuOdPrSw3W0  そんな本作で特に印象的なのが、彼女のボーカルです。10年の間に声量や技量が積み増されていったことはもちろんですが、とにかく詞の発音がクリアなのです。  英語詞に続いて歌われる日本語の詞は、楽曲のスピードを損なわないように意味や文脈よりもリズム感が重視されています。そのためかなり突飛な単語のチョイスで韻を踏んでいるのですが、それでも歌詞カードを見ずにそれぞれがはっきりと聴き取れる。 <HEY BOY くじけるなよ グサッ刺さって傷ついても 誹謗中傷の暴威 NO!SAY NO! SAY NO!>  曲の雰囲気に流されて誤魔化したくなるフレーズですが、口の形で字体をなぞるように、丁寧に歌われています。にもかかわらず、楽曲の疾走感がまったく失われていないことが素晴らしい。ここには発音を歪めて処理する妥協や、「~なんです」といってスピードを放棄してしまう諦めはありません。

音楽を乗りこなす巧みさ

 しかしそれにも増して優れているのが、木村カエラの曲を理解する能力。英語詞のAメロから日本語詞のBメロへ移り、本題のサビへとつながる。その流れにおいて、それぞれのセクションが持つトーンに応じて歌声を調節できるのです。  前フリの英語詞では、少しささやくように。同じ構成で少しずつバンドの音が増えていくBメロでは、力強く語りかけるように。そうして一番高い音を歌い上げるサビがより際立つのですね。  歌のトーンを調節することは、ただ声量の上げ下げをすることではありません。やはりそれは曲全体を把握する能力と、音楽にある色香のツボのようなものを知っている。そこに尽きるのではないかと思います。たとえば、何を歌っても一本調子になる吉岡聖恵(いきものがかり)の“立派な”歌と比べると分かりやすいでしょうか。 「Today is A New Day」は、ボーカリスト・木村カエラの才覚がいかんなく発揮されている楽曲です。本人の歌声そのものではなく、曲に艶を出すことのできる歌い手は、やはり貴重な存在だといえます。のど自慢的な上手さではなく、音楽を乗りこなす巧みさがその歌にはあるからです。 ⇒【YouTube】木村カエラ「happiness!!!」 http://youtu.be/VrV8ZZwP1Nw <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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10周年記念第2弾シングルがリリース決定!木村カエラのポップサイドが表現された前作「OLE!OH!」に続き、今作はカエラのロックサイドを表現。渡邊忍と木村カエラから生まれた疾走感溢れる「TODAY IS A NEW DAY」他を収録。(C)RS

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