「同情するなら仕事くれ」働かなくちゃ、育てられない!【シングルマザー、家を買う/19章・後編】

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 一気に怖くなった私は、焦りに焦り、とにかく今できることを考えた。とはいえ、待っていても仕事が来るわけではない。私がライターだということを知ってもらわなくては、仕事が増えないのだ。それなら、営業をするしかないと考え、営業先を探すために本屋に向かった。

 幸い、私の特技はインタビューである。インタビュー記事がない雑誌なんて、ほとんどない。それなら、とりあえずジャンルを決めることなく、どの雑誌にも営業をすることにしようと考えたのだ。

 本屋に並んだ、目の前に無数にある雑誌の裏の編集部の電話番号を隅から隅までメモし(本屋さんすいません)、家に帰り、順に電話をかけることにした。

 50社は電話をしただろうか。そこで、次の週に10社ほどアポイントを取り付けた私は、クリアファイルにこれまで執筆したページのコピーをはさみ、プロフィールと一緒に持ち歩くことにした。アイドル雑誌に音楽雑誌はもちろん、俳優、女優を取り扱うもの。さらには育児雑誌、健康雑誌、主婦向け、高齢者向け、しまいには幼児向け雑誌まで足を運んだ。

営業という名のネタ見せ



 営業に行ったところでさらりと自己紹介をしても印象には残らない。それならシングルマザーということを前面に打ち出そうと、このコラムでも執筆した電話占いの話や家を買ったことなど、営業にほぼ関係ない身の上話をして売り込んでいったのだ。

 人間、最初に「そこ、打ち明ける!?」ということを話すと、だいたい心を開いてくれるものだ。それで嫌われたのなら、仕方ない。

 すると、だいたいの編集さんは最初に心配してくれ、最後は笑ってくれる。というかウケてくれる。もはや、営業なのか、ネタ見せなのかわからない境地にまで達した。その結果がついてくるのかわからないが、とりあえず“営業して過去記事と名刺を配る=種まき”だと思い、その芽が育つのをぐっと待ったのだ。その時の心情はまさにこれ。

「同情するなら仕事くれ」

シングルマザー、家を買う/19章 1 私は働かなくちゃ、この子たちを育てられない。それなら、どんなふうに思われたっていい。とりあえず、ちゃんと働いて、働いて、旬のものを食べさせてあげるんだ!(←目的がよくわからなくなっている)

 それにしても、子供という存在は、どんなことよりも力強い馬力になってくれる。“母ちゃん強し”とはこのことである。

鬼より怖い締切



 新卒の就職活動のように数々の編集部に営業をかけた私に仕事が来はじめたのは、その半年後から1年後くらいだろうか。ちょこちょこと新しい仕事が増え、音楽ライターと名乗っていた私は、その範疇をゆうに飛び越え、いつしか自転車に乗り高知県を旅する体験記事や、なぜか瀉血するという体を張った記事まで、様々な原稿を書くようになった。基本的に新しいことに挑戦することが好きな私は、それをむしろ楽しく思い、あらためてフリーライターが天職だと感じるようになったのだ。

 しかし、実家の両親の手助けがあるとはいえ、働き詰めでは子供たちとのコミュニケーションがとれなくなる。それでは本末転倒だ。

 韓流が趣味の私の母から「子供たちを預かるのは週に2回が限度」と宣言されたのでそれを守り、仕事時間は朝の7時半から18時まで、終わらなければ2人が寝静まった22時から執筆。基本的に土日祝日は仕事を入れないという決まりを作り、その範囲でめいっぱい働くことにした。

 そのころから、平日は毎日のように取材が入り、嬉しいことに締切に追われるようになった。当時、「今日は締切だ」「今日は締切がない」と朝に確認する私をみて、「締切と鬼、どっちが怖いの?」と娘に聞かれたこともある。その時は胸を張ってこう答えた。

「締切のほうが怖い」と。

シングルマザー、家を買う/19章 2 しかし、仕事が増えるほど充実感を感じ、楽しく過ごせる私を見て、現在小2の娘は「はやくしごとがしたい」と言ってくれるようになった。毎日バタバタ過ごしているが、「仕事=楽しい」と思ってくれるのは嬉しいこと。親の背中を見て育つとは、こういうことなのかもしれない。それなら、もっと楽しく毎日を過ごそうと思うようになった。

 しかし、仕事が増えた翌年、ある通知がポストに届くことになる。差出人には、役所の名前が入っていた。

<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>

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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky

 ※このエッセイは毎週水曜日に配信予定です。

吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky
シングルマザー、家を買う

年収200万円、バツイチ、子供に発達障がい……でも、マイホームは買える!

シングルマザーが「かわいそう」って、誰が決めた? 逆境にいるすべての人に読んでもらいたい、笑って泣けて、元気になる自伝的エッセイ。




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