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「ブス」がこじれる3つのパターン。劣等感、嫉妬、承認欲求…

 人気小説家・花房観音さんの最新刊『黄泉醜女 ヨモツシコメ』が、真夏の怪談よりも怖いと話題です。花房さんは「女の嫉妬と渇望を描く名手」と言われていますが、この作品にもふんだんに描かれていました……! 黄泉醜女 ヨモツシコメ タイトルの中に「醜女」という2文字が躍りますが、ここまで描かれてしまったら男性のファンタジーをスクラップにしてしまうのではないかと心配するほど、女性たちの内面に潜む「劣等感」「嫉妬」「承認欲求」「優越感」といったドロドロした感情を持ち余す登場人物たちが登場します。  自分自身の中だったり、身近にいる女性の中であったり、「こういう面、あるかも?」とついつい感じてしまうリアルさが満載の小説作品といえましょう。  この作品の特筆すべきは、数年前に世間を騒がせた婚活連続殺人事件で死刑判決を受けた女性を彷彿とさせるキャラクター「さくら」の存在。さくらは、ブスでデブなのにたくさんの男たちに求められたということでメディアを沸かせました。まるで「出口のない迷路」のように、多くの女性たちが彼女に惹きつけられたのはなぜなのか?  それは「嫉妬」なのだと花房さんは言います。そこで、花房さんに、この作品が生まれた経緯と、執筆の上でインスピレーションを得た、「ブス」をこじらせてしまった女性たちについて伺いました。 ===以下、花房観音さんインタビュー===

私自身がそうだった「ブス」3パターン

 首都圏連続婚活殺人事件の被告人「さくら」――『黄泉醜女 ヨモツシコメ』のあらすじを読んだ方は、実在のあの事件を連想されるでしょう。容疑者の顔写真が公開され、その後、法廷での発言や事件の概要が報道されるにつれ、世間は彼女から目が離せなくなりました。  もともと『黄泉醜女 ヨモツシコメ』は、私がfacebookに被告人のブログについて感想を書いたところ、旧知の編集者から「本を書きませんか」という熱いメールが来たのがきっかけです。当初は「なぜ、彼女は男たちに女神のように崇められ男を魅了したのか」がテーマでした。  それが「なぜ、女たちは彼女にここまで心を揺さぶられるのか」に変わったのは、担当編集者の異常ともいえる情熱と、モデルとなった人物がブログを開設し、自分の口で語りはじめ、あげくの果ては獄中結婚をして、再び世間の女たちが彼女に注目しはじめたからです。  我々が驚愕したのは、彼女がまったく自分を「ブス」などと思っていないことです。そうなのです、「ブス」なんて、所詮、自意識の問題なのですから。書きはじめてから、今まで以上に、美醜についての女性の自意識を観察するようになりました。そこでいくつか自意識にとらわれてブスになっている人に関して気がついたことを列挙します。

その(1)SNS限定美人

 主にSNSで活躍しているのがこのタイプのブスです。巧みに自分が可愛く見える角度を狙い自撮りし、LINEカメラなど文明を駆使して美肌&目パッチリに加工。時には唇を半開きにして、ちょっとエッチな表情をしたり、わざとらしく肌を見せたりし、「イイネ!」と「可愛い!」コメントを集め、悦に入ります。 自撮り しかし、これをやり過ぎると実際に会って「……お写真上手ですね」と思わず口にしそうになる人が多い。断言するけど、自撮りの回数が多い人ほどギャップがひどいです。知人に、ものすごい勢いで自撮りしてる女性がいるんですけど、facebookでタグ付けされた他の人が撮った彼女の写真と並べるとまるで別人なので、かなり痛々しい。  何にせよ、「過剰な承認欲求」を見せつけられるので、こっそりフォローを外したくなります。

その(2)自己肯定しきってるブス

 世の中、ネットのコラムでも書店の「女性向けエッセイ」棚でも、どんだけみんな愛されたいんだ、モテたいんだと言いたくなるタイトルの記事や本が並んでいます。「モテ」とは他者により自己を肯定されることで、「恋愛」とは対極のものだと思っているので、それを一緒にするところから様々な悲劇が発生するのですが……。  それはともかく、「さくら」のモデルになった被告人のブログを読むと、「自己肯定感」が半端ないです。いわゆる世の中の「こじらせ女子」の対極です。  私自身は、こじらせるどころか捻じれて歪んで大変なことになってしまった女で、「自分に自信を持ちたい、自分を愛したい、自分を肯定したい」と、40歳を過ぎても考えていました。  けれど、彼女のブログを読んで考えが変わりました。「自分に自信を持ち、愛して、肯定する」と、人は他者を必要とすれど愛さない「個」になるのだと。それはある種、人ではなく「モンスター」です。悩みも苦しみも超越した生き物になるのですから。それに気づいたとき、私は「今のままでもいいんだ」と少し楽になりました。

その(3)自虐ブス

 何年か前に女性芸人限定のお笑いイベントに行ったことがありました。最初は面白がっていたのですが、女性芸人たちの「芸」が、ほとんど自分の容姿を卑下したネタであり、フリートークも男性芸人が女性芸人の容姿をツッコむというパターンの繰り返しで、段々と重い気持ちになってきました。こんなもん「芸」じゃないと思ったし、痛々しかった。  でもこれ、一般の女性でも多いです。他人から容姿をツッコまれる前に、自分で卑下する。傷つく前に、そうやって防御する。このイベントに行ってから、私はSNSでの自虐ネタを止めました。痛いだけで面白くないんだってよくわかりましたから。  あと、自虐芸やってると、「こいつは見下して傷つけてもいいんだ」って人が寄ってきます。自分でブスとかデブとか言ってるから、他人が言ってもいいんだと思われて、ロクなことはありません。  と、列挙しましたが、これ全て、私が今までやってきた「ブス」パターンです。「人のブス見て、我がブス直せ」と言い聞かせながら、日々、女性を観察しています。 <TEXT/木戸アミ> 【花房観音さん プロフィール】 兵庫県生まれ。現在、京都市在住。 京都女子大学文学部中退後、映画会社、旅行会社、アダルトビデオ情報誌での執筆など様々な職を経て、2010年、第一回団鬼六賞大賞を『花祀り』(幻冬舎文庫)にて受賞。 近著に『鳥辺野心中』(光文社)、『指人形』(講談社文庫)、『黄泉醜女 ヨモツシコメ』(扶桑社)がある。
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黄泉醜女 ヨモツシコメ

婚活連続殺人事件で死刑判決を受けた「さくら」という名の醜女と、その周辺取材を始めた42歳の女流官能作家。さくらはなぜ男たちに「女神」と崇められ、求められたのか? その男たちを殺めた真相は―。女の嫉妬と渇望を描く名手、作家・花房観音の入魂作!

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