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ニコ動出身の“天才女子ラッパー”、平均20歳の3人組…いまJポップはガールズがいい

 夜な夜な音楽チャンネルを観ていると、普段はあまり耳にする機会のない曲に触れることができます。予備知識のない状態からお気に入りを探すのが楽しいのですが、こと邦楽で気になるのは、たいてい女性アーティスト。  というのも、言葉を音楽的に響かせる能力が段違いなのですね。言いたいことや伝えたいことを表現するために音楽をおろそかにしていない。あくまでも鳴っているサウンドの一部として、言葉が利用されている。そこを最優先に考えるからこそ、意味やメッセージに抑制が効いて、婉曲的な含みが生まれる。

18歳の女子ラッパーに、恐れ入った

 そのソングライティングの妙味を改めて教えてくれたのが、“18才の天才女子ラッパー”と話題を呼ぶ、DAOKO(だをこ)。  10月21日にリリースされた新曲「ShibuyaK」は、まず計算され尽したサウンドが見事。「The Look Of Love」(イギリスのバンド・ABC)に「淋しい熱帯魚」(Wink)をブレンドしたようなイモ臭さが、<SHIBUYA KOSATEN 初体験都会>という詞に、真実味とユーモアを与えています。プロデューサーを務める片寄明人ならではの、“都市の余裕”を感じさせる業です。 ●DAOKO 「ShibuyaK」 ⇒【YouTube】DAOKO 「ShibuyaK」MV[HD]http://youtu.be/P5cI2Phbv8Y ●<参考>ABC – The Look Of Love ⇒【YouTube】ABC – The Look Of Love http://youtu.be/cNEdxZURTaI  そんな「ShibuyaK」の白眉は、最初のサビ前にくる、このフレーズ。 <歩けど歩けど在るけど なんにもないよな気になるの>。  観念的な言い方に頼らず、微温的な平和の退屈さを切り取るスマートさは、スガシカオに通じるものがあります。  しかしそこで終わらずに、<SHIBUYA KOSATEN 今日も独りで 帰る場所は此処 愛してる>と締めくくるあたり、タダモノではない。Jポップの最頻出ワードのひとつ“愛してる”ですが、ここでは全く違った意味になっている。仕方なく腹を決めた、諦めのため息としてこぼれる“愛してる”なのですね。  こうした行間を、作者が説明せずに読み取らせる詞を書く18才の女子。恐れ入った一曲でした。 【DAOKO】 1997 年生まれ。15 歳の時にニコニコ動画へ投稿した楽曲で注目を集め、高校3年間でインディアルバム3枚を発売。人気クリエーターたちとコラボする。2015年3月、アルバム『DAOKO』でメジャーデビュー。10月に 1st シングル「ShibuyaK /さみしいかみさま」をリリース

ハタチ前後の3人組が武道館単独ライブへ

 次は、詞ではなく、演奏の呼吸に行間を感じさせてくれる女性3人組バンド・SHISHAMO(ししゃも)の「熱帯夜」。こちらもメンバーの平均年齢が20歳。同じフレーズを刻むギターのカッティングの代わりに、ベースラインをたどっていくとコードチェンジが見えてくる。言わば、基礎文法のようなシブいアンサンブルですが、これを説得力をもって聴かせるとなると話は別。 ●SHISHAMO「熱帯夜」 ⇒【YouTube】SHISHAMO「熱帯夜」 http://youtu.be/l-d26xbK1T0  と言っても、聴き手を飽きさせないような必死さとは真逆で、むしろ一息つけるスペースをたくさん用意してくれている。ホスピタリティを感じさせるのですね。良い意味で、彼女たちは、何もしていないのです。ただ、曲の流れるままに身をまかせている。そのリラックスが、耳にとても優しい。  音楽不況が叫ばれる昨今ですが、決してミュージシャンの質が落ちているわけではない。そう思わせてくれる、新世代の女性2組でした。 【SHISHAMO】 2010年、川崎総合科学高等学校の女子高生3人でバンドを結成(現在、ベース担当は新メンバー)。インディーズで活動。2013年、アルバム『SHISHAMO』でメジャーデビュー、ツアー活動を続ける。2016年1月4日、平均20.4歳にして武道館での単独ライブが決定している <TEXT/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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