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SMAPの歌はなぜいいのか?今あらためて考える

 新年早々、何かと騒がしい芸能界ですが、なかでもSMAP解散報道はショッキングでした。いまのところ、どんな決着になるか予断を許さない状況ですが、もし“解散、分裂”が現実となった場合、気になるのがSMAPの楽曲の行方です。
Mr.S “saikou de saikou no CONCERT TOUR"

SMAPのコンサートツアーをDVD/Blu-rayにした『Mr.S “saikou de saikou no CONCERT TOUR"』 (2014年)

 グループとして歌えなくなったら、そのままお蔵入りになってしまうのか。そんなもったいないことを許してよいのだろうか。ジャニーズに名曲数あれど、ファン以外の人たちにも広く愛されたという点で、彼らの右に出る存在はないというのに。

音程は怪しいけど……独特の「暗さ」がいい

 その代表曲となると議論の分かれるところですが、やはり「夜空ノムコウ」になるでしょうか。というのも、この曲にこそ、SMAPの独特な立ち位置があらわれていると感じるからです。
夜空のムコウ

デビュー当時は不遇で、CDデビューまで3年以上かかったSMAP。初のミリオンセラーが『夜空ノムコウ』(1998年)

 不安と焦り、諦めと抵抗が静かに反発し合うスガシカオの詞を裏書きするジメジメとした暗さが、彼らの歌にはあるのですね。静かに語り掛けるパートには、力を持て余したうごめきを覚える一方、気持ちよく歌い上げるピークで、どこか冷やかなストッパーが働く。  そうしたナチュラルな反語が、肉声にしみついた否定となり、小骨のように歌のそこかしこに刺さっている。  <歩き出すことさえも いちいちためらうくせに  つまらない常識など つぶせると思ってた>  確かに音程が不安定だとか、声量が不十分だとか、ケチをつければキリがないのでしょう。しかし、こういったフレーズに聴き手を揺さぶるような信ぴょう性を与えることに関して、SMAPは抜きん出ている。フタをしておきたい卑屈さを、的確に突っついてくる。  理解の浅い歌い手なら青年の主張になってしまい、逆にベテランならいやらしさが勝ってしまいそうな難しいフレーズのど真ん中を射抜く。そんな風に歌ったアイドルなど、他にいないのです。  ここに名うての玄人、川村結花による泣きと解放を併せ持つグッドメロディが加わり、「夜空ノムコウ」は緊張感のある中和状態を保っているのだと思います。  耳に馴染みながらも、心はどこかソワソワと落ち着かない。その哀しみが、曲のために後付けしたデコレーションでなく、SMAPの本分であると思わせるほど、真に迫っているからです。  他にも、「朝日を見に行こうよ」、「Fly」、「どんないいこと」などの素晴らしい曲を多く持つSMAP。熱心なファンならば、シングルカットされていないものをいくつも挙げるでしょう。  この騒動の結末次第では、これらの楽曲がもう流れないなんてことも起こり得るのでしょうか。もしそうなれば、それは計り知れない損失であると、前もって言っておかねばならないでしょう。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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