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『あさが来た』AKB48の主題歌が、どんな人にも愛される理由

 昨秋の放送開始以来、好評を博しているNHK・朝の連続テレビ小説『あさが来た』。ドラマ本編はもちろんのこと、五代友厚を演じたディーン・フジオカのブレイクなども手伝って『マッサン』以来のヒット作になりそうな予感。
365日の紙飛行機

「あさが来た 365日の紙飛行機」(NHK出版オリジナル楽譜シリーズ)

 そんな中、AKB48が歌う主題歌「365日の紙飛行機」も話題を呼んでいます。当初は、“朝ドラにAKBでいいのか!?”と心配する声も多かったようですが、今では幼稚園の子どもからお年寄りに至るまで、幅広い層に親しまれているといいます。 ⇒【YouTube】365日の紙飛行機 Short ver. / AKB48[公式] http://youtu.be/7ct5C3jU_fY  確かに、抵抗なくナチュラルにしみわたっていく曲だと感じます。いかにも“名曲でございます”といった仰々しさもなく、AKB48が歌っているのも忘れてしまうほどに、良い意味で存在感がないのですね。

『蛍の光』と同じ鉄板のリズムパターン

 けれども、気が付くと頭の中でメロディが鳴りやまず、ついつい口ずさんでしまう。まるで覚える気などないのに、一体どうしたことでしょう。  それもそのはず。この曲には、時代を超えて愛される鉄板のパターンが組み込まれているのですね。歌詞の下にあるリズムに注意して聴いてみてください。 ======== ●歌い出し あ|さーのそらを  み|あーげて   たーたたんたん   たーたたんたん と|きーにはあめも|ふーって   たーたたんたん たーたたんたん ●サビ じんせい|はーかみひこう きー      たーたたんたん たー ねがいのせ てーとんでゆくよ たたんたん たーたたんたん ==========  4拍子を純粋に“たん たん たん たん”と数えるのでなく、2拍目の頭を半分後ろにズラすことでアクセントになっている。  では、このリズムを保ったまま、卒業式や、スーパーの閉店時に流れる、あまりにも有名な曲を思い浮かべてみましょう。 「ほーたーるのー ひーかーあり」……。「365日の紙飛行機」がどこか懐かしく、初めて耳にするのに歌えそうだと感じる理由は、このリズムにあるのですね。 ⇒【YouTube】【合唱曲】蛍の光 / 歌詞付き http://youtu.be/brUWAlQsWMg http://youtu.be/brUWAlQsWMg

古今東西の大ヒット曲にこのリズムが

 だからでしょうか、古今東西のヒット曲には、“たーたたんたん”が数多く組み込まれています。たとえば、Jポップならば、槇原敬之の「どんなときも」。これは、強く弾き出す子音がバスドラムのように機能する、非常によくできた(well-crafted)一曲。 ⇒【YouTube】槇原敬之 – どんなときも。 http://youtu.be/b88pxLpMZKk  もう少し時代をさかのぼると、ザ・フォーク・クルセダーズの「悲しくてやりきれない」も同様です。  洋楽では、スティーヴィー・ワンダーの「心の愛(I Just Called To Say I Love You)」や、テンプテーションズの「My Girl」。 ⇒【YouTube】Stevie Wonder – I Just Called To Say I Love You http://youtu.be/QwOU3bnuU0k http://youtu.be/QwOU3bnuU0k  鮮烈なドラムに導かれた、ザ・ロネッツの「Be My Baby」なども浮かびますし、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」での冒頭のピアノにも、どことも分からない故郷を呼び起こすような力がある。 ⇒【YouTube】The Ronettes – Be My Baby http://youtu.be/ZV5tgZlTEkQ http://youtu.be/ZV5tgZlTEkQ  そして、さらに身近なところでいえば、ディズニー映画『白雪姫』でおなじみの「ハイ・ホー」。(元になったのは古いアイルランドの民謡「All Through The Night」)「草競馬」でおなじみのスティーブン・フォスターも、「Masssa’s In De Cold Ground」をはじめ、このリズムを多用して曲を書いています。

キューバのリズム「ハバネラ」

 これは音楽がお好きな方ならご存知の通り、キューバ発祥のハバネラというリズムから派生したものなのですが、それが時代や人種、言語の違いを超えて、人々が心地よいと感じる共通のフォーマットとなっていることに驚かされます。 ⇒【YouTube】ビゼー 《カルメン》 「ハバネラ」マリア・カラス http://youtu.be/cqbuPbCpOdo  キューバからやってきたリズムに、どうしてこうも日本語が落ち着いて乗っかるのか。  そして、そもそも4拍子を均等に数えるよりも、途中で少し踏み外した方が小節の中に軸が出来たように感じるのは、なぜなのでしょう? この初歩的でポップスの王道とも言えるリズムパターンに、音楽の謎が詰まっているように感じるのです。  というわけで、何かにつけてゴリ押しとか握手券商法とか言われてしまうAKB48ですが、「365日の紙飛行機」のヒットは、音楽の力によるものだと言って差し支えなさそうです。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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