それでも、北乃きいは身をもって大切な教えを説いてくれているのです。
古代中国の思想家・荘子の話に、“
役立たずの木”というのがあります。
大工の棟梁がある土地で見かけた、巨大な神木。舟が作れるほどの立派な枝も何十本と張り出ている。しかし、棟梁は見向きもせず通り過ぎてしまったというのです。
当然、弟子は不思議に思い、こう訊ねます。
「こんな立派な材木は見たことありません。なのに、どうして師匠はスルーしてしまうんですか?」
すると、棟梁はこう言い放ったのです。
「やめろ。つまらないことを言うでない。あれは役たたずの木だ。あれで舟を作ると沈むし、棺桶を作るとじきに腐るし、道具を作るとすぐに壊れるし、門や戸にすると樹脂が流れ出すし、柱にすると虫がわく。まったく使い道のない木だよ。
まったく使いようがないからこそ、あんな大木になるまで長生きができたのだ。」
(『荘子 内篇』金谷治・訳註、岩波文庫)
そうして、“
人の役に立つとりえがあることは、自分から世俗に打ちのめされてるのと一緒だ”と、弟子たちを諭すのでした。
日々おおらかに丸みを帯びていく北乃きいの姿に、悠然たる無用の大木を重ね合わせてしまう、そんな朝です。
北乃きい / サクラサク 2016 feat. 童子-T
<TEXT/沢渡風太>