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セレブ達が反トランプを叫ぶ中、テイラー・スウィフトが沈黙を守る真意は?

トランプ勝利で曲を使われたミック・ジャガーの反応

 そして、直接選挙には関係ないのですが、ミック・ジャガーのケースにも触れておきましょう。こちらのキーワードは、“腹芸”でしょうか。  予備戦のとき「Start Me Up」を使っていたトランプに対し、ストーンズは楽曲の使用中止を要請しました。ところが先の勝利会見で会場から去る際に流れたのが、何と同じストーンズの「You Can’t Always Get What You Want」だったのです。(“欲しい物なんでも手に入ると思うなよ”という意味のタイトルが、ヒラリーへのあてつけだというウワサも)
ミック・ジャガー

ミック・ジャガーは、こう見えて超優秀なビジネスマン。各国首脳を輩出した「ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス」で経営学を学んでいた経歴も

 さてここからが面白いところで、ミックもさぞお怒りかと思いきや、「こりゃ大統領就任式で歌ってくれとオファーが来るかもな(笑)」とツイートしたのだから驚きです。  となるとストーンズはトランプに楽曲を使われることに対して、最初から本当に怒っていたのでしょうか? 彼らは実際に法に訴えて、楽曲の使用禁止をトランプ側に要求することもできたのです(※)。なのに、そうした行動に打って出ませんでした。なぜなのでしょうか?  そこでヒントになりそうなのが、イギリスのEU離脱を支持したミックの言動。トランプの訴える政策にも保護主義的な要素が見られる点を考えると、むしろ方向性は一致しているようにも思われます。  なので“世間的にトランプといっしょだと思われるのは困るから一応抗議しておく”ぐらいのトーンだったのではないでしょうか。だから再び無断で曲が使われたのにジョークで済ませてしまったのでは。

セレブ総出で応援しても、もう効かない?

 そんなテイラーとミックを見ていると、ヒラリーを熱烈に支持しトランプに罵詈雑言を浴びせてきたセレブたちが、時代遅れに見えてきます。つまり、“父性的な悪”(トランプ)に立ち向かう表現者という構図自体がもう旧(ふる)いのです。  ロックミュージシャンやハリウッドスターは、誰が何と言おうとエスタブリッシュメントの側であり、全世界の富を支配する1%のドナルド・トランプたちと同じグループに属している。その事実を棚に上げて、無邪気に彼を攻撃する茶番に飽き飽きしている人たちが、少なからず存在しているのではないでしょうか。  テイラー・スウィフトとミック・ジャガーの振る舞いは、そんな連中よりも遥かに政治的に鋭い感性を持ち合わせていることの証明だったように思うのです。 ※トランプ氏側は曲の使用権を買ったと主張しており、著作権管理団体のASCAP(日本のJASRACのようなもの)などの許諾を取っているのかもしれない。だが、ASCAPの資料に「選挙活動の場合は、アーティスト側の許諾がなければ訴えられる可能性がある」と記されている。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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