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伊勢の「赤福」に驚きの進化が…【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」 Vol.4 伊勢「赤福」】 赤福 今回のテーマとなる名産は受け取った瞬間わかった。  箱に144Ptぐらいのフォントサイズで「赤福」と描かれていたからだ。  名産というものは総じて自己主張がキツい。しかし、地域を代表しようという物の声が小さくてどうする。文字を8ptぐらいにして色をグレーにすればオシャレになると思っていそうなクソデザインに、鉄槌を下すこれでもかの「赤福」。ぜひ私の大好きな「創英角ポップ体」バージョンも作って欲しい。  ちなみに前回のひつまぶしは私の留守中に届いてしまったが、今回の赤福は夫の留守中に私が受け取った。よって物が赤福だろうがレアメタルだろうが一人で食うことができる。  ただ、夫はあんこが苦手なため、どちらにしても分け与える必要はない。ままならぬものである。  この「赤福」であるが、銘菓としてはメジャー級だろう。もちをあんこで包んである菓子だ。私も知っているし、食べたこともある。そして好きだ。  だが前述の通り、あんこが苦手な人間には嬉しいものではないだろう。  しかし、あんこが苦手な人間にも二種類いる。「あんこよりハンバーグが好き」という人間と、「こしあんなら食べれる」という人間だ。  とにかくあの小豆の皮が容赦ならねえ、あれが歯に挟まった日には、糸ようじでリストカットしてしまうというタイプだ。  その点で言うと、赤福はこしあんタイプなので安心である。

私の知っている赤福ではない

 前置きが長くなったが、ともかく食べてみなければならない。箱を開けると、ピンクの包装紙に赤字で赤福とかかれたお馴染みのパッケージが現れた。「変わりがなくてなにより」と言った風情だ。  しかし、包装紙をはがし箱を開けた時点で私の手は止まった。箱の中にさらに箱が3つあったのだ。 「私の知っている赤福ではない」  私の知っている赤福は、個包装でないのはもちろんのこと、しきりすらなく、箱全面に赤福が張り巡らされ、ほとんど一つになっている「キング赤福状態」であり、それを皿などに取り分けるか、それが面倒くさいなら弁当スタイルで食うしかなかった。  よって赤福は、銘菓としてはメジャー級でも、会社などに「皆様で召し上がってください」と渡す贈答品としては8軍なのだ。  取り分ける手間、皿を洗う手間、とにかく事務員のいらん仕事を増やす。世の中には配るべき菓子を一人で着服してしまう者もいるというが、赤福の場合だけは無罪である。  よって箱から箱が出てきたとき、もしかしてこれは赤福ではなく信玄餅なのでは、と思ったし、箱から箱が永遠に出てくる可能性も考えた。  だが、その箱からはちゃんと赤福が二つ出てきたし、さらに底が紙トレー状になっており、皿も分ける必要もないのだ。  ちなみに、あたかも皿を用意していたかのような言い方だが、何も出していなかった。  むしろ準備ゼロで何故赤福を開封したのか、当時の私の心理状態が謎だが、おそらく、箱から手づかみで食うつもりだったのだろう。  しかし赤福先輩の粋な計らいにより、このようなゴリラでも何も汚さずに食べることができた。伝統を重んじる銘菓でもこういうところはちゃんと進化しているのだ。
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赤福パイセン相変わらずマジこしてますね!
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