送られてきた明石焼きはまず、レンジで冷凍明石焼きを温め、付属のダシをお湯で溶いて浸けて食べるというタイプだった。
私は事件を全てレンジの中で終わらせたいと思っているタイプなので、お湯を用意しなければいけないという事態に一瞬「面倒だ」と思った。
だからと言ってソースで食うわけにはいかないのだ。
漫画『グラップラー刃牙』の中で最強の生物・範馬勇次郎が「台無し」という意味で「上等な料理にハチミツをぶちまけるがごとき思想」と言ってブチキレたシーンがあったが、それと同じようにこれは「上品な明石焼きにソースをぶちまけるがごとき思想」である。
全然意味が通じない気がするが、機会があったら使いたい表現だ。
作る飯が不味い奴の最たる特徴は「説明書通り作らない」である。
ちゃんと説明書通り、ダシ汁を湯で溶いた後にネギを入れ、そこに明石焼きを浸けて食べた。
主な材料は玉子というだけあって、玉子の風味が強く、柔らかい。ダシ汁ともよく合っているし、このダシが美味い。ソースをつけなくてよかった。
今回改めて明石焼きを食べなければ、一生明石焼きのことを「たこ焼きっぽいやつ」と思ったまま死んだであろうから、今回は非常に学びがあった。
だが実はこの明石焼き、2パックに対しダシも2つついていたのだが、1パックでダシ2つを使いつくしてしまったのだ。
お湯の量が多すぎて、薄くなってしまったため、仕方なくダシを2つ使ったのである。
この「分量が適当すぎる」というのもメシマズの大きな特徴だ。
では残りの1パックをどうやって食うか。己の性格上、自らダシ汁を作って食べるというのは考えられない気がする。そして冷蔵庫にはソースがある。
もしこの連載がここで途絶えたら、明石出身の範馬勇次郎に頭の皮をはがされて死んだと思ってほしい。
<文・イラスト/カレー沢薫>
【カレー沢薫(かれーざわ・かおる)】
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『
クレムリン』で漫画家デビュー。自身2作目となる『
アンモラル・カスタマイズZ』は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。主な漫画作品に、『
ヤリへん』『
やわらかい。課長 起田総司』『
ねこもくわない』『
ナゾ野菜』、コラム集に『
負ける技術』『
もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』『
ブスの本懐』などがある