ABCは、一頭の牛からどれだけの正肉が取れるかという効率性を表しており、数字はサシの割合や色つやを評価します。この基準に照らすと輸入牛は不利で、だいたいがB3止まりになります。

「最高級A5ランク」として売っている肉はこんな感じ
極端な言い方をすると、格付けとそれに伴う高額な値付けとが先で、それを美味しい(のだろう)と感じたのはあとだということです。
味覚は自分が感じたまま、わがままなものと思うのがふつうかもしれませんが、そうでもなくて、たとえばネットで検索して評価が低いと、さっきまでおいしいと感じていたものが、あれ? そうでもないのかとひっくりかえったりする。もちろん、逆もあります。
あんまりうまくもないじゃないかと感じているのに、有名人がほめている、そうすると頭の中でおいしいにちがいないと組み替えてしまうのです。
その意味で、日本の肉牛農家の選んだ戦略は、アメリカとの牛肉バーリトゥード(何でもありの戦い)で十分に健闘してきたといえるのかもしれませんが、私はここに来て潮流が変わるんじゃないかと見ています。

どう変わるのかというと、サシ、つまり脂を評価しなくなる時代が来るんじゃないかと(そういえば、今年1月、浅草の老舗すき焼き店「ちんや」が、「脂過剰な霜降り肉はもう出さない」と「
適サシ肉宣言」をして話題になりました)。
一つには、最初に書いたようなアニマルウェルフェア(動物に苦痛を与えない)の問題で、若い世代が敏感に反応するでしょう。
そしてもう一つの要因は、昭和30年代~40年代前半生まれくらいの大量消費の世代が歳を重ね、衰える時期に差し掛かっていることです。私は30年代の最後のほうの生まれですが、前後5年くらいの年齢差の友人たちはことごとく、サシは「もう」要らないといいます。
もし赤身がはやったら、せっかく振り切ったアメリカやオーストラリアと同じ土俵になってしまうと心配される向きもいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫、日本の農家のあくなき創意工夫にかける情熱は決してしなびたりはしませんから。
<TEXT/畑井貴晶>
【畑井貴晶】
フードクリエイター、マーケティングコンサルタント。白金のカフェ&ダイニングバー「
blanc noir」、みなとみらい「Audi Cafe by blanc noir」をプロデュース。現在、新橋「
炭火焼肉有田牛」料理長、茅ヶ崎駅ビル「
アロハストリートカフェ」のフードコーディネーターなどを務めているが、元々はマーケティング業界に籍を置いていた。著書『大人のマーケティング』(古本のみ)。