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1ツイートで炎上・解雇に…ネットリンチを楽しむ“善良でヒマな皆さん”

スマホで監視しあって、燃やす相手を探している



 では、レーラーの過ちを調べていたモイニハンはどんな気分だったのでしょう。

 最初は<森の中で獲物を追いかけているハンターのような気分>(p.41)だったと語り、それは「悪くない気分」だったと語っています。ディランのファンだった彼には、レーラーの不正確な記述が許せなかった。つまり、正義に燃えて動き出したのです。

 しかし、実際にレーラーの不正を告発するスクープ記事を執筆し、2200ドルほどのギャラを手にして残ったのは、自分のことを<捏造や盗用ばかりを専門に探している人間のように見ている>(p.92)世間の目だけだったといいます。そして、<「ふと気づくと、いつの間にか自分が熊手を持って集まった暴徒の先頭にいるんです」>(p.92)

 最初は善意で動き出したものの、知らないうちにいつしか自分が「暴徒」を率いる存在になってしまったと気付く。このメカニズムこそ、ロンソンが最も危ういと考えているところなのですね。

炎上2ツイッター上での攻撃は、遠隔操作のドローンによる攻撃に似ているのでは、とも思う。攻撃されている側の状況を直接、目にすることがないために、自分がどれだけ残酷なことをしているか実感がないのである。>(p.102)

<ごく普通の人が戦場にいる兵士のようになっている。他人に何か落度を見つけると一斉に攻撃を加える兵士だ。そして、互いに対する敵意は最近になって急激に強まってきている。>(p.166)

 繰り返しになりますが、このほとんどが良心や正義感に端を発している点。そして一般市民同士が公権力という“暴力”の行使を経ずに、スマホ片手にお互いを監視し合う状況が出来上がっている。ここが実に恐ろしいのです。

1ツイートで解雇に…儲かったのはグーグルだけ



 それはネット検索を一手に引き受ける巨大企業にとっても同じこと。

 旅の道中で、<「アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけない。私、白人だから!」>(p.123)というツイートをしたために職を失ったジャスティン・サッコの例が象徴的です。

ジャスティン・サッコ

このたった一言のツイートが史上最悪の炎上を招き、サッコさんは会社を解雇された

 サッコの軽口に憤った“善良な”市民が彼女の名前を検索し、乗っていた飛行機を特定し、ついにはケープタウン国際空港に降り立った彼女の写真を撮る。

 するとそこからさらに「ジャスティン・サッコ」の名前は全世界に知れ渡り、さらなる検索対象となる。すると「自閉症の子供とセックスする夢を見た」という不適切な過去のツイートが発掘され、また新たにその名を知る人々が生まれる――。

 事件が起きる2ヶ月前まではわずか60回ほどしか検索されていなかった「ジャスティン・サッコ」というワードが、それ以降では122万回も検索されたというのです。それによってグーグルは12万ドルほど稼いだ計算になるのだそう。高みの見物をしているだけで、おカネが流れ込んでくるわけです。

 その一方で、サッコへのリンチに加担した無数の市民には何のおこぼれもありません。それは著者の言葉を借りれば、<グーグルの無給インターンになったようなもの>(p.474)なのです。それなのに、なぜ何の得にもならないようなことに夢中になってしまうのでしょうか?

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なぜ一銭も得しない炎上に夢中になるのか

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