和牛業界が格付けによって輸入牛と棲み分けたように、個々の銘柄に思い入れるだけでなくて、「和豚」という総体的な防衛をしないとまずいんじゃないのかなあと傍目にも心配になっていたところへ、銘柄豚から頭一つ抜け出たのがカナダポークです。
写真提供:カナダポーク・インターナショナル
和牛と輸入牛にあるような決定的なちがいは和豚と輸入豚にはなく、味も見た目もほとんど差がないところを突いた会心のブランド展開で、頭一つどころか三馬身(三豚身?)ほどもリードしていると思うくらい、破竹の勢いで伸びています。
そんな値段でとんかつが出せるのかと驚かせている出店ラッシュの「かつや」や、全国の百貨店などで販売されている某有名カツサンドも当初からカナダポークを使っているそうです。
この数年スーパーにもたくさん出回りはじめましたが、このカナダポークを日本に広めてきた、カナダポーク・インターナショナルのマーケティングディレクター野村昇司さんによれば、
「まず種が日本と同じ三元豚であること、飼料もコーンと麦を使って同様のものであること、自然環境も日本と似ているし、日本の優れた畜産技術からさまざまなことを学んでいること、などが特徴的で、同じ実力を持っているのは実は当たり前なんです」(野村さん、以下同じ)
それでいて3割くらい安いのですから、国産豚は危機的な状況です。
「近年、チルド(冷蔵パッケージ)の技術が飛躍的に上がって、冷凍でなくても持ってこられるようになりました。味が劣化しないどころか、奇しくも運んでくる日数がちょうど熟成期間になって、もともと柔らかいものがいっそう柔らかくなったのです」
写真提供:カナダポーク・インターナショナル
いわばエイジドビーフならぬエイジドポークということですね。一度も冷凍せずにはるかカナダから届く。そういう時代。もっとも気になるところの安全基準は、
「日本より高い水準でクリアしていて、トレーサビリティに至っては制度と整備が遅れている日本よりはるかに厳密なルールで管理されています。畜舎が人里から遠く離れており――カナダですからねそういう場所はたくさんある(笑)、そして飼育枠も大きいので飼育密度が低く病気感染しにくいんです」
スーパー等で買うなら、この品質保証マークが付いたものを
美味しくて安くて安全。なかなかここまで完膚なきまでにやられてしまった食材も珍しいように思えます。昨年私はランチボックスを1万食近く作りましたが、豚肉料理の場合はすべてカナダポークを使い、お客様に「原価だいじょぶなの?」と心配されるくらいの出来栄えで提供できました。
いったい、この完全さに日本の豚肉産業はどう対抗するのでしょうか。
消費者から見れば、美味しくなる、美しくなる、安全になる、それでいて安くなるような競争は歓迎すべきもの。
和牛のようにサシは入らないそうですが、豚肉にもマーブリング(霜降り)をどう入れるかという技術開発が行われているそうで、これからの和豚産業(あえて和豚と呼んでおきます)の展開には目が離せません。
<TEXT/畑井貴晶>
【畑井貴晶】
フードクリエイター、マーケティングコンサルタント。白金のカフェ&ダイニングバー「
blanc noir」、みなとみらい「Audi Cafe by blanc noir」をプロデュース。現在、新橋「
炭火焼肉有田牛」料理長、茅ヶ崎駅ビル「
アロハストリートカフェ」のフードコーディネーターなどを務めているが、元々はマーケティング業界に籍を置いていた。著書『大人のマーケティング』(古本のみ)。