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松田聖子のコスプレPVに思う。邦楽PVはただの販促ツールなのか?

②神経を逆撫でする批評精神 カニエ・ウェストとCAPSULE

 音楽や映像でメッセージを伝えるのは、なかなか難しいものです。青年の主張っぽくなってしまうか、せいぜい出来損ないのシュルレアリスムになってしまうのがオチだからです。というわけで、そうならないために嫌悪感と物議を醸して、毒をもって毒を制すような形でしているのが、カニエ・ウェストなのだと思います。  「Famous」では有名な絵画を模して、トランプ大統領やテイラー・スウィフトと思しき蝋人形がヌードで一列に横たわる。この時代に有名であることの意味についてカニエなりに見解を示したのだそう。確かに彼のメッセージには不快感が多く示されましたが、でもこのビジュアルは壮観ですよね。  日本でカニエみたいなことやったら干されるのは間違いないのでよほど注意が必要なのですが、中田ヤスタカ率いるユニット「CAPSULE」の「Another World」のビデオはかなり辛辣です。  福島第一原発をモチーフにしたと思しき廃墟の上を飛び回るドローン。それが撮影した映像を、商業ビルの巨大スクリーンやスポーツカフェのテレビを通して楽しむ一般市民の姿が描かれています。  3.11以降、様々な議論がなされましたが、「Another World」のPVほど的確なものはありませんでした。“フクシマ”を憂えようと、原発への異議を唱えようと、それらはこの国においてはおしなべてエンターテイメントに他ならないのだと。  これは、Jポップではチャレンジングな表現なのだと思います。

③音楽は色でもある Kungsとミツメ

 さて最後は若い世代のミュージシャンから。若干20歳、フランスのDJクングスの「This Girl」と、東京出身の4人組バンド「ミツメ」の「めまい」は、どちらも一コマを一枚のフォトグラフとして保存したくなるほど、豊かな色彩が強く印象に残ります。  共感覚なる言葉が生まれる遥か以前から、たとえばモーツァルトなどは調性によって異なる色が見えていたのではいかと言われていますが、「This Girl」と「めまい」の映像から同様の神秘が伝わってきます。  “音楽が売れない”と言われて久しい今日この頃ですが、だからこそ販促から離れてPVの役割を考え直す、よい時期なのかもしれないと思いました。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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