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石田ゆり子の缶コーヒーCM曲、「午後の紅茶」冬CM曲が胸にしみるわけ

 19年前の1998年にリリースされたスピッツの「楓」が、いまリバイバルヒットしているんだそうです。

 12月18日付のビルボードジャパンチャートでは前週までの圏外から28位にランクインしていますし、レコチョクの週間ランキング(12月6日~12月12日集計)でも3位と大躍進。

http://youtu.be/JdN_q2QXeZY

「午後の紅茶」CMでスピッツの「楓」が再ヒット



 これはキリン「午後の紅茶」のCMで流れたのがきっかけでした。上白石萌歌(17)の素直な歌声に、甘すぎず切なすぎない「楓」の曲調も寒いこの季節にぴったりとハマる。センチメンタルなんだけど、背筋がピンと伸びるような厳しさもあるんですよね。

 名曲は色褪せないといったところですが、一方で映像の力も見逃せません。女子高生役の上白石萌歌が電車を降りて田舎道を歩いていると、日が暮れてあたりはどんどん暗くなっていく。いまにも鼻の奥がツンとする冷たい空気が漂ってきそう。なんとも物悲しい場面です。

 しかし、満天の星空のサビになると一変します。都会で暮らすボーイフレンドに届けと歌い上げる姿に、底冷えする寒さも包み込んでしまうほどの力強さが生まれるのですね。「楓」という曲の勘所をがっちりとつかまえた美しいワンシーンです。


 もちろん、「楓」そのものの器が大きいこともあるでしょう。言い方は難しいのですが、こういう色気は音楽バカには出せないのですね。専門性だとか小手先の理論で満足する人たちには見えない全的な美があるのです。

「ファイア」CMの「男が女を愛する時」が色彩とマッチ



 同様にキリン「ファイア」のCMも印象に残りました。石田ゆり子(48)と働くオッサンの構図に目が行きがちですが、ここでは背景の色彩とパーシー・スレッジの「男が女を愛する時」のサウンドがマッチしているのに注目したいと思います。

石田ゆり子

10月から流れていた「FIRE 交通警備員」

 この曲はCシャープというキーなのですが、このように五線紙の最初にシャープやらフラットがいっぱいついている調は、音楽をまろやかな色合いにするのです。「ファイア」のCM(交通警備篇やコンビニ編)では、石田ゆり子の後ろに夕焼け前の晴れた空が広がっているのが見えます。

 空は青くても完全な青ではないし、日が落ちようとするときの赤と黄色とオレンジが混ざった光が雲から透けている。

「男が女を愛する時」のCシャープという調は、この一語では名付けられない複雑な色彩にぴったりのトーンなのですね。


音楽のキーには“色”がある



 かつてキーの名前で浮かぶ色を訊かれたブライアン・ウィルソン(75、ザ・ビーチ・ボーイズのリーダー)が、フラットが4つ付くAフラットはターコイズブルーだと答えていたことがありました。AだとかEは赤、Fは白と、純粋な色を挙げていたのとは対照的ですよね。

 フラットやシャープがいっぱいつく調は、どこかはっきりと定まらず、良い意味で意図をぼやかすような感じがするのです。


 だから、ややもすると癒し系美女が「おつとめご苦労様」と言っているだけのありがちな展開になるところ、音楽と映像のテクスチャーが隠し味になっているわけですね。

 こうして、音楽と映像のあわせ技で、イメージや匂い、手触りを伝えようとしているから、この2つのCMは素晴らしいのだと思いました。わかりやすいメッセージを打ち出して理解させようとするのではなく、ゆったりとニュアンスを味わわせてくれる。音楽をメッセージとして利用せず、なによりも質感を大切に扱っている点に誠実さを感じました。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】

石黒隆之
音楽批評。ipodに入ってる曲は長調ばかりの偏食家




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