次に住む場所や働き口が見つかってなければ、家に戻ってまたDV被害を繰り返すことになる――だからシェルター側は、退所に慎重になります。夏央さんにはそれが、「なかなか出られない監獄のよう」と感じられました。
「何度も何度もケースワーカーに『賃貸物件の内見をしたい』とお願いをして、何度目かに受け入れられ、実際に部屋を見に行き、契約をしてシェルターを出ることができました。
シェルターを出るときに住み込みの就職先をあっせんしてもらえることもあるのですが、あまりいい話は聞きませんでした。本人の希望は聞いてもらえません。シェルターと提携しているホテルがあるということで、そこで働いている人が多いようです。日給7500円という話です。
どうしてもシェルターから出たい場合は、家族や親戚の家を退所先として指定することができます。家族がいない人は、元カレの住所を家族のものだと偽るのだとか。でも携帯が手元にないので、家族の住所が思い出せずに退所先が書けない人が続出していました」(夏央さん)
シェルターでは携帯をスタッフに預けるルールのところが多いそうです。GPSで場所がバレたり、DV夫などと連絡を取ってしまうリスクがあるためです。
「シェルターを出るとき、携帯を返してもらいましたが、そこには母から怒濤のようなメールと電話が入っていました。母の暴力が問題で家を出たのですが、問題は据え置かれたまま。
結局、自分から母に説明をする機会が失われただけで、何の解決になったのかよくわかりません。シェルターを出たら母からの連絡に応えることはできますが、今さら恐ろしくて話す気にはなれません。
これが私のシェルター体験です。
今でも、あの低い天井や暗い室内を思い出すと、心臓がドキドキして息が苦しくなってきます。狭い場所にいるのが怖い、閉所恐怖症のようになってしまいました。
シェルターは全国にあり、場所によって待遇が違うのかもしれません。確かに、問題のある入所者が多いのも事実かもしれませんが、シェルターのいい噂はあまり聞かない気がします。
女性を守るためのシェルターですが、自分の経験から言うと、入ってよかったのか、正直疑問なのです」(夏央さん)
『DVシェルターの女たち』(彩図社文庫、2016)という入所体験者のルポや、専門家の発言等を読んでも、現状のシェルターに課題は多いようです。命の危険がある自宅よりはずっといいはずのDVシェルター、少しずつ環境が改善されていくとよいのですが…。
<TEXT/和久井香菜子>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】