――そういう状況のとき、娘としてどうすればいいのでしょうか?
瀧波:病気になってどうなるかは、周囲も、告知された本人にもわからないと思います。家族にしたら、想像通りにならなくてびっくりすることの方が多いかもしれません。だから、「
コントロールできない事態なんだ」と思って、それまでの関係性でやっていくしかないと思います。
家族は残された時間で旅行に行きたいと思っても、本人はショックで旅行どころじゃないかもしれない。「してあげたい」「こうなりたい」はできないことの方が多いと思うし、戸惑うのは仕方がないことなので、自分が母にしてあげたいように接するのがいちばんいいのではないでしょうか。

『ありがとうって言えたなら』より
――家族間でできることはありますか?
瀧波:家族の病気が判明するのって、事故や事件に近いと思うんです。例えば車で初めて衝突事故を起こしたら、すぐ警察と保険会社に電話して……なんてテキパキ動けないですよね。しかも、ショックで2、3日口がきけなくなるとか、思いもよらないショックで起こる心身の反応に対処するので精一杯じゃないですか。
家族の病気も同じで、すごく大きなショックとストレスが一気にやってきて、それぞれが自分の立場でそれに対応するので精一杯。家族で協力してこういう方向に持っていこうとか、たぶん、すぐにはムリだと思います。

今からしておきたい、「ありがとう」と「肩もみ」の2ステップ
――今振り返って、お母さまが元気なうちにしておけばよかったと思うことはありますか?
瀧波:ふたりで旅行やショッピングに行くとか、孫の顔を見せるとか、世間でよく言われる親孝行はだいたいやっていたのですが、マンガのタイトルみたいに、
ちょっとしたことにも「ありがとう」って言うのは、元気なうちからもっと言っておいてもよかったかなって思いますね。
素直になれなかったとか、言いたいことが言えなかったっていうのはあとあと残っちゃうと思うので、きちんと言葉で伝えておくのは大事だと思います。
あとは、身体接触。母が元気なときは抱き合いたいとか思わないけど、病気になってそう思っても、慣れていないとめちゃくちゃ勇気がいるんです(笑)。
――マンガで、エレベーター前でお母さまと別れるときに戸惑うシーンがありましたね。
瀧波:今がそのタイミングだし、親が求めているのもわかるし、今やっておかないと絶対後悔するっていうのもわかっているのに、照れくささが邪魔をして体が動かないんですよ。恥ずかしがっている場合じゃないって思いつつ、ギリギリまでどうしていいかわからなかったですね。
だから、日ごろからやっておくと、いざというときスムーズにできると思います。
とはいえ、日本人の親子で、特に私たちの世代だと、別れ際に握手をする文化すらないから、日常的に触れ合うのは恥ずかしいじゃないですか。
まずは、ちょっとしたことから「ありがとう」とか「嬉しい」って気持ちを伝えて、次に
肩もみをするとか、自然な形で体に触れる機会を増やしてみる。そんなふうに、できることから取り入れてみてほしいですね。
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『ありがとうって言えたなら』瀧波ユカリさんインタビュー Vol.1―
<TEXT/千葉こころ>
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自由とビールとMr.Childrenをこよなく愛するアラフィフライター&編集者。
人生後半戦も夢だけは大きく徒然滑走中