復讐?それとも…乙姫が浦島太郎に「玉手箱」を渡した理由
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――とても控えめで物静かな人だった。私はやりたいことがたくさんあって、それに彼が賛成してくれるのがうれしかった。彼とは長く付き合ったけど、終わりは一瞬だった。
「僕にもやりたいことができたから、東京へ行こうと思うんだ」
私には彼と一緒に東京へ行く気は全くなかった。まだここでやりたいことが山ほどあったから。だけど引越しの荷造りをする彼を見ながら、もしこの人が(もっと早く行けばよかった)と思ったら悲しいなと考えていた。
どうか、一緒に過ごした時間を浪費だったと思わないでほしい。私と一緒にいたせいであなたが後回しにしていた人生の主題を知ったとき、あんな時間を持たなければよかったと思わないで。
私は最後に何を言えば彼のこれからのヒントになるかわかっていた。傲慢かもしれないけど、精神的なことについてアドバイスできるだろうと思った。だけど黙っていた。ほんとうはあなたの成功を心から祈っているけど、これくらいの意地悪はゆるしてほしい。あなたはどのみち自分の意思で箱を開けるだろう。
君と過ごした夏を絶対に忘れない。あれは心から素晴らしい夏だったよね。
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<TEXT & ILLUSTRATION/はらだ有彩 EDIT/森聖児>
【はらだ有彩 プロフィール】
テキストレーター(テキスト/テキスタイル/イラストレーション)。2014年に、テキストとイラストレーションをテキスタイルにして身につけるブランド「mon.you.moyo」を開始。「She is」他ウェブマガジンにエッセイを寄稿。 1
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