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復讐?それとも…乙姫が浦島太郎に「玉手箱」を渡した理由

日本のヤバい女の子 ケース1:乙姫】

 ヤバいといわれる女たちがいる。松居一代、豊田真由子、泰葉……。だが、彼女たちは本当にヤバいのだろうか。誰も彼女たちの素顔を見ようとしていないだけなのではないか。

 そんなことを思わせるのが、かえりみられなかった昔話の女たちの本心を蘇らせ「成仏」させる昔話女子エッセイ『日本のヤバい女の子』(はらだ有彩著/柏書房)だ。

『日本のヤバい女の子』「これは本当にハッピーエンドなのか?」と、昔話に違和感を覚えたことはないだろうか。とくに、女性の登場人物は今以上に男性中心の世の中に翻弄され、時に悲惨な末路を辿る。かえりみられなかった彼女たちの素顔はどんな風だったのか、もしも現代に生まれていたら、どんな未来が待っていたのか。

 まずは、別れ際に毒ガス同然の煙が入った玉手箱を元カレに手渡した女性が登場する、「浦島太郎伝説」のケースから考えてみよう。

※以下、『日本のヤバい女の子』より一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したもの。

「浦島太郎伝説」のあらすじ


 昔むかし、浦島太郎という漁師がいた。太郎はある日、浜で子どもにいじめられている亀を助けてやる。亀はぜひお礼をしたいと言って太郎を背中に乗せ、海の底の竜宮城へと送っていった。

 竜宮城は今までに見たどんな場所よりも美しかった。乙姫という女性が太郎をもてなし、なにかと世話を焼いてくれる。いつしか二人は懇意になっていた。きれいな着物、うまい酒と豪華な食事、となりには素敵な恋人。夢のような幸福な日々だった。

 ふと気づくと三年が経っていた。太郎は故郷に残してきた家族が心配になり、一度里帰りしたいと乙姫に告げる。乙姫は悲しみ、去り行く恋人に手土産をひとつ渡した。

 太郎は元来た亀に連れられ、懐かしい浜辺に降り立った。

 懐かしいのだが、どこかおかしい。記憶にないものがある。通りかかった村人を捕まえ、太郎はここにあった家を知らないかと尋ねた。

「何十年もここに住んでいるけど、そんなものは見たことがないよ」

 彼が故郷をたってから、実に三百年が経過していた。もうここにはだれもいない。唯一残ったのは手渡された玉手箱だけ。身も心も寄るあてのなくなった太郎は乙姫の言いつけを破り、そっと箱を開けた。白い煙が立ち上る。風がもやを吹き散らすと、そこには一人の老人が立っていた。

玉手箱は復讐か、乙女心か


『日本のヤバい女の子』より

『日本のヤバい女の子』より

「見てはいけない」と禁じられたものを見てしまう昔話のパターンは「見るなの禁」とされ、古今東西の物語に見られる。

 自分の持ち物を覗き込んで中身を見るというのは自己の内面を見つめることに似ている。太郎が竜宮城に長居して、「家族が心配だ」「このままではいけない」と気づいた時、彼の目は初めて己の人生に向けられた。

 玉手箱の煙は彼にエイジングをもたらしたが、それは「乙姫が太郎の時間を不当に進めた」のではなく、「乙姫の影響で止まっていた太郎の時間が進み始めた」のではないか。乙姫の魅力で忘れていた彼自身の思想や時間、自我や野心を取り戻し、彼の精神は老成したのだ。

 一方、乙姫について考えると「なぜ親切にしてくれた(または恋人だった)人物をひどい目に遭わせるのか?」という疑問が湧きあがる。

 彼女は別れを切り出した恋人の足を引っ張ろうとしていたのだろうか。元彼がFacebookで自分より幸せそうにしているのがムカつくというやつだろうか。だけど私にはやっぱり、彼女がそうだとはとうてい思えないのだ。

 この物語では太郎の変化に焦点が当てられる。だけど、竜宮城は浦島太郎がやってくるずっと前から存在していたはずだ。乙姫が一人の男を騙して不幸にするためだけに整えられた設定だなんて、彼女にとって侮辱である

 おそらく彼女には竜宮城での暮らし、使命があった。喜びや悲しみを感じる心もあった。だから故郷へ帰ると言い出した男を守ってやることも、怒りに任せて抹殺することも、一緒についていくこともできなかった。偶然出会って一度共鳴した関係は、お互いの使命を優先することで途絶えることになった。

 現代風に書き直してみると、次のようになるかもしれない。

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乙姫の視点で現代風に書き直したら

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