ところで恋というものは常に生まれなければならないものか。この物語は「二の巻に続く」と締められているが、実際に二巻は残されていない。作者がストーリーに余白を作るために、存在しない続編をほのめかしたのだろうと言われている。
私は姫と右馬佐に恋がうまれなければいいと思う。右馬佐はニュートラルに彼女を評価しているようで、
「虫好きでさえなければ」「もっと見た目をちゃんとしたら魅力的」と言う。この「たられば」は、右馬佐が今はまだ自分の価値観を見直す気がないことを意味している。姫君がどれほど虫を愛していようと、そして姫君の涼しげで魅力的な雰囲気がその探究心から湧き出ていようと、そこには彼は重きを置いていないのだ。
もしも、右馬佐が後日
「この前はごめん。君の好きな毛虫について教えて」と訪ねてきたなら、そのときは顔をつき合わせて話してもいいかもしれない。また蛇を贈ってきたら、今度は泣かす。二巻のストーリーを無限に想像しながら、私は空白のページをめくる。
<TEXT & ILLUSTRATION/はらだ有彩 EDIT/森聖児>
【はらだ有彩 プロフィール】
テキストレーター(テキスト/テキスタイル/イラストレーション)。2014年に、テキストとイラストレーションをテキスタイルにして身につけるブランド「mon.you.moyo」を開始。「She is」他ウェブマガジンにエッセイを寄稿。