乳児のときから赤ちゃんを別室に寝かせることが普通のアメリカ。劇中、マーロとドリューの寝室にはベビーモニターが置かれており、別室にいるミアが泣いたら彼らに聞こえるようになっています。ところが、ミアの泣き声で起きるのはいつもマーロだけ。
『タリーと私の秘密の時間』より
睡眠不足と疲労、心労が重なって昔のような明るさを失ったマーロを心配した彼女の兄は、
「ナイトシッター」を彼女にプレゼントします。
ナイトシッターは
夜9時~朝7時ぐらいまで勤務する夜のベビーシッターで、近年、アメリカやイギリスで流行っているのだとか。英語では「ナイトナニー」や「ナイトナース(看護師の資格をもった人の場合)」とも呼ばれます。
経験年数や資格によって変わりますが、
時給は1,650円から4,400円ほど。つまり、一晩につき16,500円から44,000円もかかることから、ナイトシッターを雇っているのは夫婦共に医師などの超多忙夫婦やリッチな夫婦だけなのだそう(1ドル=110円換算)。顧客を安心させるため、ナイトシッターには30代から40代の母親が多いと言われています。(※2)
『タリーと私の秘密の時間』より
しかし、現れたナイトシッターのタリーにマーロはびっくり。なぜなら、彼女があまりにも若い“イマドキ女子”だったからです。
それでも仕事ぶりは完璧。
「私を頼って」「(あなたは)いいママよね」「単調な毎日が子供たちへの贈り物なのよ」といったタリーの何気ない一言で、“自分はよい母親ではない”、“退屈な自分の人生は失敗だった”、“女としての自分はもう終わった”……という思い込みから、マーロは少しずつ解放されていきます。
『タリーと私の秘密の時間』より
そして、ある晩、タリーとマーロはブルックリンへ繰り出してハメを外し、とんでもない事件が起こります。そして、タリーの秘密も明らかに……。
『タリーと私の秘密の時間』より
映画の終盤で、夫ドリューが「夜の状況を考えず、君が完璧にやっていると思ってた」とマーロに打ち明けるシーンがあります。
“育児は女性にしかできない”、“子供は母乳で育てなければいけない”、“子供の学校に積極的に関わるのがよい母親”、“ママが作るお弁当が一番”……。こういった母性神話に女性も、そして男性も囚われていることを教えてくれる本作。
タリーのようなナイトシッターを日常的に雇うことは現実的ではないでしょう。ですが、社会に巣くう様々な思い込みを捨てることで、私たちはもう少し幸せになれるのではないでしょうか。本作は育児中の女性だけではなく、すべての女性と男性に観てほしい、感動の1本です。
<文/此花さくや>
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【参考】
※1…The Wilbarger Protocol (Brushing Therapy) for Sensory Integration – The National Autism Resources
※2…Baby Cries at 2 A.M.? No Need to Get Up – The New York Times
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此花わか
映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米ACS認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。セックス・ポジティブな社会を目指してニュースレター「
此花わかのセックスと映画の話」を発信中。墨描きとしても活動中。twitter:
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