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体罰や暴言で子どもの脳が変形。“指導”に見せかけた虐待の実情

 女子レスリングでオリンピック4連覇を果たした伊調馨選手が声を上げたことを皮切りに、日大アメフト部、マラソン、ボクシング、体操、重量上げ……。2018年に入ってからアマチュア・スポーツ界ではパワハラ問題が後を絶ちません。 「たとえそれが“指導”の名の下に行われようと、力で言うことを聞かせる、力で押さえつけて支配する行為は、れっきとした暴力です」と語るのは、臨床心理士でIFF CIAP相談室セラピストの木附千晶さん。  子どもと家族をめぐる問題を中心に臨床・執筆活動を行う木附さんに、現代の暴力・虐待問題について伺いました(以下、木附さんの寄稿)。 パワハラ

暴力で支配する指導に、教育効果はない

 たとえそれが“指導”の名の下に行われようと、力で言うことを聞かせる、力で押さえつけて支配する行為は、れっきとした暴力です。暴力を使って恐怖を煽るやり方は、手っ取り早く言うことを聞かせたり、一時の結果を得るには確かに便利かもしれませんが、教育効果はゼロです。  たとえば小学校時代に塾講師から日常的に暴力を受けていたという女性(37歳・会社員)は、「体罰を受けたときの風景は、25年以上たった今もありありと目の前に浮かぶのに、きっかけになったできごとはまったく思い出せないんです」と語っています。  同様の話を、カウンセラーとして相談のなかで聞くことは珍しくありません。

体罰や暴言によって脳が変形する

 教育的な効果があるどころか、逆に有害と言った方がいいでしょう。力で支配された者は、「力のある者は力の無い者を好き勝手に扱っていい」と、学習してしまうため、成長した暁には自分がされたように、自分より弱い者を暴力で支配する歪んだ人格になってしまうリスクがぐんと上がります子どもへの暴力 さらに「お前のため」という名目で繰り返される暴力に長年さらされるわけですから、自分を傷つけ、辱(はずかし)める者に感謝せねばならないという矛盾も抱えます。そのため、憎しみや恨みなどの負の感情が本人も気づかないうちに蓄積され、マグマのように噴出する機会をうかがいます。そうして、「虐待の連鎖」や「暴力の連鎖」は続いていくのです。  近年では、「親の体罰や暴言によって脳が変形する」ことも明らかになっています。福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授がアメリカのハーバード大学で18歳から25歳の男女約1500人を対象に行った研究によると、子ども時代に体罰を受けた人の脳は、体罰を受けていない脳に比べ、感情や思考をコントロールする前頭前野の容積が平均19.1%少なく、萎縮もしていたそうです。友田教授は、『東京新聞』(2018年3月6日)で次のようにコメントしています。 虐待「前頭前野は、萎縮(いしゅく)することで危険や恐怖を常に感じやすくなる。感情をコントロールするため犯罪抑止力にも関わる部位で、正常に発達しないと問題行動を起こしやすく、うつ病に似た症状も出やすい」  また、友田教授は暴言を受けていた人の脳は、そうでない人に比べて会話機能を司る聴覚野の容積が平均14.1%多かったとも指摘しています。聴覚野の中で興奮を伝えるシナプスの密度が増えたことが原因として考えられ、これによって心因性難聴になったり、耳が聞こえにくいために人と関わることを恐れたりするようになることも考えられるということです。
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「容認されると思って…」教育現場で繰り返される体罰
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