2週間ほどたったころ、タイジさんは娘の体につねったようなアザがあるのを見つけた。
「どうしたのと聞いても娘は何も言わない。それどころか、
たまたま私が小バエが飛んでいるのを見つけて手を上げたら、娘が頭を庇(かば)うようにしてよけたんですよ。それを見て、ついに妻が娘に手を上げているんだなと思わざるを得なかった」

彼は
妻の留守に、こっそり家のあちこちに小型カメラをとりつけた。離婚は決めていたが、どうしても娘の親権がほしかったので証拠を手に入れるためにしかたがなかったのだという。結果、
妻が娘を足蹴にしたりつねったりしているのがわかった。
彼はきちんとマンションを借りて娘とともに家を出た。それから家裁に調停を申し出たが、妻は娘の親権を渡さないと言い張る。
調停は不調に終わり、彼はついに裁判を起こした。
「すべて娘のしつけの一環だと妻側は言い張っていましたが、私が次々に証拠を出しました。
私と母とで暮らしているうちに、娘はようやく笑えるようになりました。ふたりであちこち一緒に行って、私と一緒だと自分が怖い目にあわないとわかったようです。ママにぶたれたことや、外で遊ばせてもらえなかったこと、幼稚園の友だちと遊ぶことも禁じられていたことなどを自分の言葉で言えるようになっていた。
調停から裁判まで3年かかりましたが、ようやく親権を手にしました」
彼は本業の会社を辞め、今は親友の会社で余裕をもった働き方をしている。収入は下がったが、今は小学生になった娘と毎日一緒に夕飯をとっている。
「もうひとつびっくりしたのは、
けっこう稼いでいたはずなのに貯金がほとんどなかったこと。妻の浪費がひどかったんですよね。さすがにこれには裁判官も呆れていたようです。財産分与の裁判では、家がほしいという妻の要求は却下、前の家は売って娘のために貯金しています」
タイジさんはようやく平穏な生活を手にいれた。だが、仕事三昧だった反省も今はあるという。妻を追いつめたのは自分にも責任がある。だからこそこれからは娘のために生きたい。彼は最後にそうつぶやいた。
<文/亀山早苗>
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【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『
復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。