一方、結婚後、風俗店で働いていたことのあるリナさん(39歳)は、夫の友人が客として来たことがあると話してくれた。

「夫は風俗店が好きではなくて行ったことがないというタイプ。しかもこの広い東京で、まさかそんな偶然があるわけないと思っていたんですが、実際、会ってしまった。
私が働いていたところは駅で待ち合わせするシステムでした。
待機所からぶらぶらと歩いていったら、人待ち顔の男性がいて……。夫の学生時代の友だちだとすぐわかりました。待ち合わせた男性は、スーツの胸ポケットに白いハンカチ、縁なし眼鏡をかけたアラフォー、身長は180センチと大きい。ぴったり彼にあてはまる。どうしよう、と慌てました」
きょろきょろしていた彼がリナさんに気づいた。ここはいちかばちか芝居を打つしかないとリナさんは瞬時に腹を決めた。
「周りに誰もいなかったんですよ。それで『あれ?』と彼が不審そうな顔をして。
『ごぶさたしてます。どうしたんですか?』と先手を打ちました。そちらこそどうしたんですかと言われたので、『この先の病院に友だちが入院していて見舞いに来たんです』と。病院があるのは知っていたので。そうしたら彼はちょっと焦った感じで、『僕は仕事の待ち合わせで』と。
別れの挨拶をして、私は駅の階段を登りながら店に電話。『知り合いだったから他の人を派遣して』と。
冬だったのに汗びっしょりになりました」
もともとは結婚後に突然発覚した親の借金を返すために風俗で働き始めたリナさん。親の借金のことはどうしても夫には話せなかったのだが、残りも100万円ほどになったのでそれをきっかけに風俗を辞めたという。あれから5年、その後生まれた子も4歳になり、今は平穏な日々を送っているそうだ。
<文/亀山早苗>