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「あの人、発達障害じゃない?」ブームが産んだ“異常”を精神科医・香山リカさんと考える

 落ち着きがない、整理整頓が苦手、コミュニケーションがうまく図れない……そのようなことが代表的な症例として挙げられる、さまざまな「発達障害」。これまでは主に幼児の例が話題に上がっていましたが、近年、成人してから発覚する「大人の発達障害」にも注目が集まっています。

悩む女性 それに伴い、会社内などで「あの人はきっと発達障害だ」と他人が勝手に決めつけるケースも発生していて、中にはいじめに発展するケースもあるとのこと。もし自分のまわりでそのようなことが起きてしまったら、どう対処すればいいのでしょうか?

今は発達障害という言葉が、一種のトレンドやブームのようになっていますよね」と語るのは、精神科医で「『発達障害』と言いたがる人たち」(SB新書)の著者でもある香山リカさん。

 今回は香山さんへ、自身が発達障害と決めつけられて悩む女性、発達障害を疑われて部署内でいじめに遭っている男性、2人の事例をもとに、この問題への対処法を伺いました。

精神科医・香山リカさん

精神科医・香山リカさん

会社の後輩に「発達障害」と認定されて……


 まずはAさんの事例から――。

 部署内に何でも相談できる後輩がいるというAさん。後輩はいつも的確なアドバイスをくれるので、Aさんは彼女をとても信頼していました。しかしある日、いつものように後輩へ相談事を話したところ、「前から思っていたんだけど、Aさん発達障害じゃない?」と、唐突に言われたそう。しかも、WEBで検索した“発達障害チェックリスト”を見せられ、「これも当てはまる、これも……」とほとんどすべてが該当するとして、「やっぱりそうだ」と決めつけられてしまいました。

 そのチェックリストの項目は誰にでも当てはまるようなものが多かったため、Aさんは「誰しも少しはそういう要素を持っているのかもね。心配してくれてありがとう」とその場は軽く受け流したのですが、その日以降、後輩はAさんを特別扱いするように。

“発達障害チェックリスト”

写真はイメージです(以下同じ)

 例えば飲みの席でAさんが冗談を言っても、「Aさんはちょっと変わっているから」「Aさん、本気で受け取っちゃったと思うよ」と、周囲へ変なフォローを入れるといった感じです。後輩としては、Aさんを理解している、かばっているというスタンスのようなのですが、Aさんは日増しにやりづらさを感じるようになります。

 そこで、「人のことを発達障害扱いするのは失礼だよ!」と言おうとしたのですが、それは実際に発達障害で悩む人たちを見下している発言ではないかと感じて、そんな自分を責める気持ちにも苛(さいな)まれるようになってしまいました。

事実をきちんと伝えればいい


――Aさんのように、他人に言われて先生のところへ受診に来られる患者さんはいらっしゃいますか?

香山リカさん(以下、香山):直接言われたというのはあまり聞きませんね。でも、発達障害に限らず、病名やLGBTなどのデリケートな問題を、「あなたはそうです」と言うこと自体が非常に問題だと思います。本人がカミングアウトするならまだしも、こちら側から決めつけたり、認めさせるように強要したりするのは、あってはならないことです。

 ただ、「アナタ統合失調症でしょ?」とは言わないのに、発達障害ではそのようなことが起きてしまうのは、発達障害には話題にしやすいカジュアル感があるからだと思います。

「整理整頓が下手」とか「日にちを忘れやすい」とか、発達障害の症状とされるものの中には、すごく薄めれば多くの人が当てはまるものも多く、逆にいえば、誰もが何らかの特性を持っている可能性があるということなので、「自分もそうかも」と感じてしまう人はすごくたくさんいるんです。なので、もしかしたら言う側は「あなたB型でしょ?」と同じくらいの気軽さで口にしたかもしれませんね。

十人十色――誰もが当てはまるだけに、指摘されると「そうかもしれない」と不安を感じたり、自信を失ってしまったりする人も多いようです。

香山:発達障害特有の独創性とか、イノベーションを起こせる力とか、一般的な人にはない要素が社会を変えるとして、一時期ヒーローのように言われていたこともあるんです。実際に、目で見たものに音や味を感じる“共感覚”があったり、私たちでは発想できないような物を作り上げたり、すごい強みがあるんですよ。そういうところに憧れて、発達障害だと診断されたがる人もいるくらい。なので、指摘されても落ち込む必要はなくて、「私にも強みがあるのかしら?」って思った方がいいと思いますけどね。

――はっきりさせるために受診をするというのはどうなんでしょうか?

香山:いいと思いますよ。今は医師側も「来たからには病名をつけて治療しよう」という考えではなくなってきているので、曖昧な動機でも、例えば「このチェックリストを見て気になったから、病気なのかどうか知りたくて来た」などとちゃんと言ってくれれば大丈夫です。昔は「薬漬けにされてずっと通わせられる」なんて言われていましたけど、今は薬を何種類も出すと健康保険が切られるし、病気ではない人を安易に病気と断定できないような仕組みにもなっているので、安心してください(笑)。

――逆に、Aさんのように反論したい場合は相手にどう伝えたらいいですか?

香山:「そんな失礼な!」みたいな言い方をすると、発達障害の人をバカにしているようでイヤな気持ちになるでしょうから、強く反論するのではなく、「そんなことを言われたのは初めてです」とか「学生時代も指摘されたことはないですけどね」という風に、事実をきちんと伝える言い方をすればいいと思います。

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診断よりも「日常の工夫」が大切

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