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「あの人、発達障害じゃない?」ブームが産んだ“異常”を精神科医・香山リカさんと考える

診断よりも「日常の工夫」が大切

――もし自分が大人の発達障害かも……と思った場合、少しでも早く診断してもらった方がいいのでしょうか? 人との接し方香山:例えば脚の骨折とかなら、診断は早い方がいいですよね。でも、前述の通り、発達障害的な要素は良いものかもしれないので、早く診断して早く支援に結び付ければいいというものではないと思います。  20歳を過ぎて大人の発達障害とわかって、「早くにわかっていれば、もっとましな人生だったはず」と思う人もいるようですが、小学生のうちにこの教育を受ければ治るというものでもないし、それですごく育てやすい子になるというわけでもないのです。典型例をのぞいては、早く病名がついたからといって、いいことがあるわけではないんですよね。大人になってからでも、手遅れってことはないと思いますよ。 ――自分がそうかもと感じている人も少なくないようなのですが、どう受け止めるのがいいのでしょうか? 香山:今は発達障害がブームのようになって、言葉だけが爆発的に広がっていますが、どこから診断をつけるかといった線引きが医療側にはっきりできていないのが現状です。ただ、私の考えでは、たぶんあと少ししたら落ち着いて、病名で呼ばれる人の範囲はすごく狭まっていくと思うんです。なので、あまり巻き込まれ過ぎないでほしいと思います。  もし今困っていることがあったとしても、会社に行けている人であれば、医療や福祉の助けが必要なほど重症ではないはずなので、発達障害の診断より、「忘れっぽいからメモを取る」など日常の中の工夫のほうが解決すると思いますよ。発達障害の診断は合格不合格みたいな話ではないから、あまり言葉に踊らされずに、自分が生きやすい工夫をすることが大切です。 メモ――発達障害の特集が頻繁に組まれるなど情報が氾濫している昨今、自分の状況を正しく把握するにはどうしたらいいですか? 香山:医師である私たちでさえ、あるタイプの病気についての講習を受けた後の診察で、その症状がすごく目に入ってしまうことがあります。そのくらい人間はすぐに認知にバイアスがかかるものなんですね。  なので、発達障害の話を聞いて症状があてはまるように感じることは、誰しもあり得ると思います。ただ、突然その症状に気づくとか、突然その病気が表面化するということはないので、もしこれまで気にしていなかったのなら、知ったことで暗示にかかっているか、誰にでも当てはまる面を誇張している可能性が高いです。そのため、1、2年前の自分はどうだったかを冷静に思い出して比較してもらえたら、「そのときはそうではなかったな」などと気づけると思います。 =============  発達障害という名前が有名になったからこそ、新たな問題が表面化してきている昨今。もし冒頭のAさんの立場になったら、あなたはどう対処しますか?  次回は、発達障害を疑われての社内いじめ問題をもとに、この問題をさらに掘り下げていきます。 <取材・文/千葉こころ> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
千葉こころ
ビールと映画とMr.Childrenをこよなく愛し、何事も楽しむことをモットーに徒然滑走中。恋愛や不倫に関する取材ではいつしか真剣相談になっていることも多い、人生経験だけは豊富なアラフォーフリーライター。
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