発達障害は現在の“トレンド”。あまりとらわれすぎないで
――この数年で発達障害に注目が集まっていることも原因なのでしょうか?
香山:そうでしょうね。うつ病とかサイコパスとか、その時々でトレンドがあるし、
注目されると、バイアスがかかってみんながそう見えてしまうんです。以前、サイコパスに関する本が売れたときに、身近な人のちょっとした言動がサイコパスっぽく見えて「あの人も絶対そうだ!」みたいなことがありましたが、今はそれが発達障害なんだと思います。
発達障害を知らない人に理解してもらうことは大切ですが、昨今はメディアが全精力をかけてキャンペーンをやり過ぎているような気もして、そこまでやらなきゃいけないのかな? って感じています。
――あまり発達障害にとらわれすぎない方がいいのですね。
香山:今、小学生の6.5パーセントは発達障害(※平成24年 文部科学省の調査より)という数字もあるようですが、学習障害で文字が読めないとか、自閉症スペクトラムでまったく言葉が出ないとか、
厳密なプログラムで支援が必要なケースはそんなに多くはなくて、ほとんどは、その子に合った指導や接し方を工夫するだけで乗り越えられる程度なのではないでしょうか。それは別に病気の有無に関係なく必要なことですよね。
大人であっても、会社も行けないほどなら就労支援のグループなどにご案内しますが、働けている人であればそこまで重症ではないはず。入社試験も入学試験も切り抜けてきているわけですからね。そういう人に今から診断をつけるというのは、あまり意味がないと思いますね。
――では、働けている大人で診断が必要になるのはどのような場合なのでしょうか?
香山:困りごとのレベルが明らかに仕事に支障をきたすほどだとか、どこをどう工夫していいかわからないとか、そういう場合かと思います。ただ、これは医療の場の問題なのですが、
大人の発達障害できちんと診断をつけられる医者はすごく少ないし、定評のある医者はものすごく混んでいて、半年や1年待ちの状態なんです。比較的すぐみてもらえる医者は、実はきちんと診断をつけているわけではなく、なんとなくの印象で言っていることがほとんどなんです。
――診断が必要なタイプとそうでないタイプなどはあるのでしょうか?
香山:私たちが診断するのは、その診断を持っていたほうが配慮してもらえるなど、本人に得がありそうなときです。発達障害と診断しても、ADHD以外は薬がないので、治療につながるわけではありませんから。私などは、通常発達との境界と思われる例には、「医学的にいえばそういう診断はつけられるかもね。でもだからといって、
こうすれば治るという問題ではないから、自分のひとつのクセみたいなものとして知っておけば、何かするときに少し工夫できるかもしれないよね」などとお伝えすることもありますよ。
――診断されたことで、「だから仕方がない」となってしまう恐れもありますもんね。
香山:
病名をつけることで思考停止に陥ってしまっては、誰にとっても得がありませんからね。典型例でない場合は、個性のひとつとして、医療ではなく現実の世界で工夫してもらえたらと思います。これまで、単純に「ちょっとだらしない」とか「口下手」とか、「ちょっと偏屈な人」とかって、日常の言葉で説明してきたじゃないですか。その程度に受け止めてもらえたらと思いますね。
<取材・文/千葉こころ>
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