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発達障害の子をもつ親が一番言われたくない言葉

一番近い人から放たれる言葉が痛い

 彼女は典型的な体裁を気にする人で、人と違った枠を受け入れない。私が離婚するときも、「旦那は単身赴任」と触れ回っていたくらいだ。そして、情報量も少ないからこそ、「発達障害は親のせい」「発達障害は治る」という間違った情報を、あたかも正義のように振りかざしてくる。そのたびに訂正しても、母と娘、両方とも感情が先立ってしまうため、いつもケンカになってしまう。基本的に、性格が合わないのだ。 人と違った枠を受け入れない母 対するじぃじは、ぽんちゃんとみーちゃんが生きがいで、生まれたときからべろんべろんにかわいがっている。私が離婚して出戻ってきた瞬間から煙草をやめ、ジムにも通いだした。「少しでも長生きして、俺が孫たちを支えるんだ」と言ってくれたからこそ、私はいまもこうして働いていられる。最高のイクジィだ。  ぽんちゃんの障害がわかったときも、ひっそりと泣いていたのを知っている。それからというもの、じいじの口癖は、「すこしずつ、すこしずつ」になった。「ぽんちゃんはすこしずつ、大きくなるもんなぁ」「ぽんちゃん、昨日よりオレの言うことがわかってる気がする!」と、目をキラキラさせながら報告してくれる。  そんなじぃじの存在は、ぽんちゃんにとっても大きなもので、いままでひとことも喋ることができなかったぽんちゃんは、いつのまにか「じぃじ」だけ言えるようになっていた。愛ってすごい。 最高のイクジィだ あるとき、またばぁばが「この子はいつ普通になるのかねぇ」「このままじゃかわいそうだよ」と、一番言ってほしくない言葉を投げかけてきた。彼女なりに、ぽんちゃんのことを愛しているからこそ、この言葉が出てくることは理解ができる。でも、“かわいそう”ではないし、“普通”とは何なのか。その物差しを、彼女に決める権限はない。私がつらい顔をしていると、じぃじは落ち着いた声でこう言ってくれた。 「ぽんちゃんは、俺たちとは違う世界で生きているの。そこでの幸せは、俺たちの幸せと一緒とは限らない。だから、俺たちがぽんちゃんの幸せを決めるのはおこがましいことだよ」  その言葉に、思わず泣いてしまった。誰一人、他人の幸せを決める権限なんてないのだ。その人が幸せなら、それが幸せ。自分の価値観を相手に押し付けることほど、傲慢なことはない。  それ以来、ばぁばは、“普通”という言葉と、“治る”という言葉を言わなくなった。まだ完全に、とは言えないが、少しは理解してくれたのかもしれない。 <文/吉田可奈 イラスト/ワタナベチヒロ> 【登場人物の紹介】 登場人物の紹介息子・ぽんちゃん(8歳):天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをもろともせず小学校では人気者 娘・みいちゃん(10歳):しっかり者でおませな小学5年生。イケメンの判断が非常に厳しい。 ママ:80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。
吉田可奈
80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽雑誌やファッション雑誌などなどで執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。長男に発達障害、そして知的障害があることがわかる。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』Twitter(@knysd1980
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