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全盲のママが語るリアルな日常「私は“目が見えないだけの普通の人”」

道を歩いているだけで「がんばっているね」

 偏見は、「障害者について知らないから生まれていることが多い」と西田さんは言います。 「子どもが生まれたあとは特に称賛されることが増えました。子どもを連れているだけで『目が見える私たちでも子育ては大変なのに、えらいわねえ』なんて言われたり。一見、寄り添ってくれている言葉のように感じられるかもしれませんが、『目が見える私たちでも』というのは明らかに私たちを下に見ているんですよね。そういう言葉には傷つきます」  障害者が頑張る姿を見せて一方的に感動するというのは、「24時間テレビの影響が大きいのではないか」と西田さんは指摘しています。 「24時間テレビ、昔は本当に嫌いで。障害者ががんばっている姿を見て感動して涙するというのは、そこにやっぱり見下す感覚があるのだと思ってしまうんです。今はそこまでは思っていなくて、世の中の人が知らないいろんな障害について知る、いい機会ではあると思うようになりました。  ただ、できないことに挑戦する姿を流すのではなくて、障害者にもできることがあることを流すほうが有益のような気がします。たとえば私が料理をしているところを流せば、子どもが視覚障害をもっている方や、中途失明の方に希望を与えられると思うんですよね」  しかし偏見があってもそこで立ち止まらなかったのは、自分はかわいそうな人間じゃないという思いがあったからだと言います。 「たくさんの人に恵まれ、大変なこともありますが幸せな毎日を送っていますから、心の中で反論することができたんです。でも言葉通りに受け取って、社会に出られなくなるような人もなかにはいます。障害者に危険がないか見張るような社会ではなく、見守るような社会になれば、障害者ももっと活躍できるようになるはずです。  最近、偏見はないというような意味合いで『みんな一緒』というようなことを言う人が多いですが、私はまだそこまで一緒だと思えないんです。私も含めてですが、よりよい社会になるようにできることはもっとあるだと思っています」

夫の一言「今のままでいいの?」で専業主婦から再び社会に

西田梓さん

西田梓さん

 今は多方面で活躍の幅を広げる西田さんですが、結婚して子育てが始まってからしばらくは専業主婦だったそう。専業主婦も大変な仕事ですが、再び社会に出たいと感じていた西田さんが決意した動機を聞いてみました。 「きっかけは夫の一言でした。いつか社会に出たいと言いつつも、専業主婦でいる私に対して、『これからの人生、今のままでいいの?』と言ったんです。そのときは、子育てしていましたから、私だってがんばっていると怒っていたんですが、『確かに、いつかっていつだろう?』と、だんだんと自分の人生について考えるようになって。  キャリアカウンセリングを受け、今までの人生を棚卸ししていくうちに、社会に対して視覚障害のことを知ってもらいたいと考えるようになり、再び社会に出る決意をしました」  母として、妻としての仕事に加えて、様々な活動がそこから始まります。 「面白いもので、決意をするといろいろな話をいただけるようになるんですよね。講演会やワークショップに呼んでいただいたり、取材も受けるようになりました。そこからたくさんの出会いがあったんです。SNSでお子さんに視覚障害のある方と出会って、そういう方の助けになればと『Mothers’ Cafe』を立ち上げ、私の母の育児記録やコラムをアップするようになったりしました」  また視覚障害の生活を知ってもらう動画を制作してYouTubeにチャンネルを作ってもいます。 「編集ができないのでTwitterで『誰か編集できる人いませんか?』で呼びかけたら、ストーリークリエイターのHARUさん(@harumizuki423)が快く引き受けてくださって。私がどういう思いで、誰にその動画を見てもらいたいと思っているかまでの意図をくんで、一緒に作ってくれています」  YouTubeチャンネルにアップされている動画の中には、34万回再生されているものも。それが、当時大学生だった林原あずささんの作った「特別なんかじゃないんだよ-全盲ママの子育て-」です。
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