妻には悪いけれど、彼女と人生をやり直したい。その思いが日に日に強くなっていく。一方で、妻の顔を見ると「そんなことを考えてはいけない」と自分を戒める。揺れながら迷いながら時間が過ぎていった。
「あるとき
彼女から、結婚できないならこれ以上つきあえないと言われました。わかった、今日言うよと心を決めて家に帰ると、妻が飛びついてきたんです。『
ついに妊娠した!』って。自分がどういう顔をしていたかわかりません」
夫婦の営みは間遠になってはいたのだが、それでも月に一度くらいは習慣でしていた。そして
彼が離婚を決めたその日、妻の妊娠が発覚したのだ。
「妻は満面の笑みでしたが、話しているうちに『本当は私もつらかった。あなたもつらかったでしょ』と泣いたんです。オレってなんてひどいやつなんだろうと強烈に思いました。妻がそんなに苦しんでいるのに自分は他に好きな人を作っていたわけですからね」
その後、彼は好きな人に正直に理由を言い、謝罪して別れを告げた。妻は37歳直前に第一子を、1年半後に第二子を産んだ。
「こんなことってあるんですね。
子どもを産んで母となった妻は、非常に魅力的な女性にもなりました。下の子が1歳になったときだったかな、妻が『あなたはこの家庭で、この人生でよかったの?』とぽろりと言ったことがあるんです。当たり前じゃないかと笑ってみせたけど、
妻は全部気づいていたんじゃないか……そんな気がします」
彼が言うとおり、妻はあのとき、離婚を考えている彼の気持ち、他に好きな人ができたことなどを知っていた可能性は高いのかもしれない。
「ふたりで協力しながら子どもを育ててみて、改めて妻と一緒になってよかったと思います。あのまま子どもがいなかったら、僕はおそらく違う選択をしていた。だけどそれで幸せだったかどうかはわからない。子どもができたから離婚しなかったというのは結果論で、
彼女と添い遂げるために神様が子どもを連れてきてくれたのかもしれない。今はそう思えるんです」
再生できたのは、あくまでも偶然なのかもしれない。だが、彼にとっては「必然」と感じられるのもわかるような気がする。
―夫婦再生物語 Vol.1―
<文/亀山早苗>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】