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スピッツは朝ドラ主題歌、イエモン吉井は初TVCM…50代バンドが今元気なワケ

 平成も終わりを迎えようとするなか、音楽シーンは90年代リバイバルの様相を呈している。
スピッツ

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 NHK朝の連続小説『なつぞら』に主題歌「優しいあの子」を提供したスピッツ(メンバー4人とも51歳)に、サッポロビールの新商品でCM初出演を果たしたTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉(52)。  さらにエレファントカシマシの宮本浩次(52)はソフトバンクのCMへの出演や、ソロシングル「冬の花」のリリースと、ここへきて露出が急増しているのだ。  共通するのは、30年以上のキャリアを積んだアラフィフのおっさんという点だ。彼らのファンも同様に年齢を重ねているわけで、金銭的にも比較的余裕が出てくる頃。昨今の再ブームには、そんなビジネス的な要素も確かにあるだろう。

年を取らないと出ない味がある

 だが、もう一方で音楽の聞こえ方そのものにも注目したい。アラフィフのパフォーマンスは、20代の初期衝動やきらめきとは違う、燻(いぶ)された色気を帯びているからだ。  たとえば、スピッツの「醒めない」という曲を聴いたとき、筆者はいたく感動してしまった。セルフパロディに逃げるでもなく、新機軸でお茶を濁すでもない。自らの持ち味である甘酸っぱさを、もうこれ以上味がしなくなるまでに反芻(はんすう)し続けてきた。その過程で、正当と良識に向かって経年変化していく音楽のマジックを、スピッツは教えてくれたのだ。  こうした音楽における加齢の恵みを紹介していたのが、英紙インディペンデント電子版の「いかにして歌声は加齢とともに良くなっていくのか」という記事だ(2019年3月26日)。  自作曲の「Both Sides Now」をうまく歌えず、悩んでいた若かりしジョニ・ミッチェル。そんなとき、70代のキャバレーシンガーの歌う「Both Sides Now」を聴いて、そこに曲のあるべき姿を見たというエピソードだ。  歌詞に含まれた意味合いのグラデーションや、反語的な表現。これらをごく自然に聞かせるには、それなりの歳月を要する。平たく言えば、人生経験がモノを言うわけで、アラフィフはようやくその入り口に立ったというところだろうか。

若い頃の歌でも50代ならではの魅力が

 エレカシが「悲しみの果て」に見るものは、当然30代と50代では違うだろうから、歌い方と演奏も変わってくるだろう。イエモンが<新しい何かが俺の中で目覚める>(「SPARK」)と歌うときの性衝動も同様。  いずれにせよ、曲が出来た時点での解釈が唯一絶対の正解ではないのが音楽の面白いところだし、そのように変化させ得る楽曲を持っているバンドは強い。  確かに、50代が体力的に下り坂を迎える年代なのは否定しようがない。だが、余計な悩みから解放され、方向性がクリアになった分、合理的にエネルギーを注ぎ込める。  アラフィフバンドが、元気でありながら余裕を感じさせる理由かもしれない。 <文/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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