ワクチンは必要?反ワクチン派はおかしい?専門家にゼロから聞く
インフルエンザ、麻疹(はしか)、B型肝炎、髄膜炎菌、子宮頸がん…などなど、さまざまな病気に対するワクチンが開発されています。中でも子宮頸がんワクチン(正式にはHPVワクチン)は副反応が大きく報道されたことで注目されました。インフルエンザワクチンも効かないし打たないほうがよいという人がいます。
ではワクチンは怖いものなのでしょうか。
峰宗太郎先生に聞いてみました。峰先生は今、ウイルス学と病理学の研究のために米国国立衛生研究所(NIH) にお勤めで、世界の医療のスタンダードもよく調べておられます(以下、回答はすべて峰先生)。
ワクチンの説明をする前に、まず病原体によって起こる病気である感染症に対する免疫の仕組みを簡単に説明しましょう。ウイルスや細菌などの病原体が体に入ると、体の中の免疫細胞がこれらの異物を退治しようとします。インフルエンザなら高熱や鼻水が出るのはこのためです。
病原体と戦っているうちに体はそれら病原体の形の一部を認識して記憶し、それ以降同じ病気にかからないように退治します。そのときできるのが「抗体」というものです。そしてこの作用を利用したのがワクチンです。
ワクチンは病原体に似た形をもつ成分からなります。ワクチンを打つと、体は病原体が入ってきたものと勘違いをし、免疫機能をもつ細胞がこれに対して反応するのです。
そうすると病原体の特定の形にだけ反応する「抗体」を作ります。この抗体は、病原体ごとに違った形のものがつくられるのですが、この抗体が病原体とくっつくことで免疫が機能を発揮します。その結果、感染しなくなったり、症状を軽くできたりするのです。
一度この反応が起こるとその抗体は長い間作られ続けます。ワクチンはこのような仕組みを使って、体に抗体を作らせることが目的なのです。抗体がつくられ続けている間、感染を防ぐことができます。
「劇薬」とは、大量に摂取すると死亡する可能性がある薬のことです。そういう意味ではワクチンも劇薬に指定されます。しかしこれは量の問題です。
例えばコーヒーや紅茶、緑茶に入っているカフェインも劇薬です。でもコーヒーを毎日飲んでいる人もいますよね。コーヒーは健康にいいなどの論文もたくさんあります。劇薬であるかどうかと副作用などが出るかはまず関係なく、量によって毒性がでないことももちろんあるのです。よって「劇薬だから怖い」ということはなく、ワクチンで打つ程度の少量であれば問題ありません。
ワクチンには強い影響を及ぼすレベルの毒は入っていません。反ワクチン派のやり玉にあがりがちなのは保存料。保存料としてわずかな水銀化合物が含まれているのですが、これも問題ない量であることが分かっています。
ワクチンが効くことを証明した詳細な研究は多数あります。
ワクチンの効果がわかる一番の良い例は天然痘です。痘瘡(とうそう)とも呼ばれたこの病気は世界中で流行り、多くの命を奪いました。しかしワクチンによって発症数は減少し1980年に根絶されました(WHOによる世界根絶宣言)。このようにワクチンは感染症を確実に防げるのです。
さらに、社会全体の何%の人がワクチンを打つと流行しないかも分かっています。例えば麻疹は94%ぐらい、ムンプス(おたふく風邪)は86%ぐらいの人がワクチンを受けていれば、これらの病気は流行りません(Vaccines Volume 34, Issue 52, 20 December 2016, 6707-6714 など)。
しかしインフルエンザワクチンはちょっと特殊です。インフルエンザウイルスはウイルスの形が素早く変化していくことや、たくさんの型があることなどから、ワクチンによる感染の予防効果がやや限られているのです。しかし、インフルエンザワクチンは、罹った時に重症化を防ぐことができるという役割もあるので有用なのです。
ワクチンには猛毒が含まれているから打たない方がいい、ワクチンを推進している人たちは金の亡者だという反ワクチン派の人もいますが、それは本当でしょうか。
医師で、また薬剤師でもあり、感染症の研究をしている
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