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女優、筒井真理子が語る「人生の不条理を知ることで強くなれる」

 女優、筒井真理子の美しい“横顔”にインスピレーションを受けた映画監督、深田晃司が、『淵に立つ』(2016)で主演した彼女と再びタッグを組み創り上げた『よこがお』(7月26日公開)。  ある事件をきっかけに無実の加害者にされてしまう女性がたどる日常の崩壊と復讐を描くことで、誰にでも起こり得る“人生の不条理”に人間がどう立ち向かうか――を問いかける衝撃作です。  2016年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞に輝いた『淵に立つ』で、第71回毎日映画コンクール女優主演賞をはじめ数々の映画賞を受賞した筒井真理子は、本作でも憑依的な名演技を見せ、女性の複雑な多様性を表現しています。いまや日本を代表する演技派女優と呼んでも過言ではないであろう筒井さんにインタビューを行いました。 【あらすじ】  誠実な人柄と仕事ぶりで皆から厚い信頼を得る訪問看護師の市子(筒井真理子)。とりわけ訪問先の大石家の長女・基子(市川実日子)と次女・サキ(小川未祐)の勉強を見てやるぐらい、市子と大石家の間には家族のような絆が芽生えていた。ところがある日、サキが誘拐されてしまう。事件とのつながりを疑われた市子は仕事も婚約者も失い、復讐を決意する。市子は“リサ”となって、美容師の和道(池松壮亮)に近づくが……。

トレーナーから特訓を受けた神演技

筒井真理子さん

筒井真理子さん

――映画の冒頭から、筒井さんの憑依的な演技に目が奪われました! あんなふうに人間の体が動かせるなんて知りませんでした(笑)。 筒井真理子さん(以下、筒井)「あのシーンは本当に大変だったんです!(笑)トレーナーの方からみっちり特訓を受けたんですが、撮影後は肩コリやら背中痛やら、体中が痛くて痛くて……。(笑)」 ――筒井さんは役作りに熱心に取り組まれることで有名ですが、本作では深田監督が脚本を執筆する段階から制作にかかわったと聞きました。 筒井「役作りには時間をかけてじっくりと取り組みたいタイプかもしれませんね(笑)。今回は、監督が脚本を書いている傍ら打ち合わせをして、私の子供時代などをお話しました。作中、押入れのエピソードがありますよね?  あれは私が幼稚園に行っている頃の思い出で、その話を監督とスタッフに話したら皆がゲラゲラ笑って、「それ、映画で使っていいですか」という話になったという……(笑)」

時系列ではない撮影で体重をコントロールした役者魂

――えっ、あの衝撃的なシーンが?! あのシーンは市子の心を象徴していたようにも感じました。『よこがお』は単なる勧善懲悪の復讐劇ではありませんね。 筒井真理子さん筒井「ミラン・クンデラの小説『冗談』が監督の発想源で、私が演じる市子の“復讐”を描いていますが、私自身は嫌なことがあれば復讐よりも、それを避けて忘れようとする性格なんです。だから正直、市子の復讐心をうまく表現できるかどうか心配でした。  ただ撮影が始まり、池松壮亮さんが演じる和道に初めて会うシーンでは、職も婚約者も奪われて絶望の淵に立っていた市子が、『ここでなにかしなければ生きていけない』とふうっと乗り移ったような気分になったんです。あの瞬間、『逃げ場がない』状況に置かれた八方塞の人間の気持ちが理解できたというか……。」 ――過去、現在、未来の3つの時間軸が交錯するストーリーですが、肌の色といい、やつれ具合といい、筒井さんの表情ひとつでどの時間軸に自分がいるかが分かりました。 筒井「『淵に立つ』の物語の前半と後半の間には何年もの月日が流れていたので、“時間”を表現することはそれほど難しく感じませんでしたが、今回の『よこがお』は時間の流れがゆるやか。映画の前半の健やかな市子を演じるときはご飯をしっかり食べ、後半のやつれた市子を演じるときはご飯を減らして体重をコントロールしました。  とはいえ、時系列に撮影したのではなく、その撮影場所で起こるシーンをすべてまとめて撮影する“場所おし”という撮影方法だったので、例えば、今日見せた“やつれ具合”を1週間後に同じように見せなくてはいけなかったんです。そういった部分はちょっと大変だったかな。」 筒井真理子さん――それはどのように工夫したのですか? 筒井「自分でも混乱してしまわないように、とにかく細かく台本にメモを書き込みましたね。自分の気持ちがどんなに完璧でも、身体に変化がないと市子の心情は観客に伝わらないと思い、『3枚の花びらが落ちてしまったしおれた花』とか『茎を持つとポロッと折れるぐらいのやつれ様』とか、“やつれ具合”をイメージにして(笑)、市子の心の旅をできるだけ繊細に演じるように努力しました。」 ――深田監督は筒井さんの現場で見せる集中力に感銘を受けたそうですが、そこまで役作りに没頭した後、現場を離れて素の自分に戻ることはできるのですか? 筒井「役の魂みたいなものはずっと自分に残るので、現場を離れて素の自分に戻り、そのあとまた現場に行ってもすぐに役になり切ることは、そんなに難しくはないかなぁ。  ただ、この作品の場合、全編ほとんど出ずっぱりだったので、撮影が終わると寝るしかなかったんですよ(笑)。だから撮影期間中はずっと市子のままだったような気がします。  撮影が終わった後、『やったぁ~。やっと市子から抜けられる! 楽になる~!』と思いましたから(笑)」
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家族でも恋人でも、人間関係は“脆い”もの
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『よこがお』7月26日(金)より角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開 ヘアメイク:在間亜希子〔MARVEE〕スタイリスト:齋藤ますみ ジャケット、スカート:AKRIS アクセサリー:GOLDY
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