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大ブレイク中、島根発バンド「Official髭男dism」はどこが凄いのか

 いま20代を中心に絶大な支持を集めているバンド「Official髭男dism」、通称“ヒゲダン”をご存知でしょうか? 島根県出身の男性4人組で、先週まで放送していた『熱闘甲子園』(ABC系)のテーマソング「宿命」を耳にしたことがあるかもしれませんね。
Official髭男dism『Traveler』 (2019/10/9、ポニーキャニオン)

Official髭男dism『Traveler』 (2019/10/9、ポニーキャニオン)

ヒゲダン(Official髭男dism)、ビルボード国内1・2位を独占

 ボーカルとキーボードを担当する藤原聡(28)をはじめ、島根大学と松江工業高専の卒業生からなるメンバーは、それぞれ複数の楽器をこなす強者ぞろい。リーダーを置かず、自由な議論から生まれるアレンジが楽しいポップソングは、たちまちチャートを席巻。8月26日付のビルボードジャパンストリーミングチャートでは、2枚目のシングル「Pretender」と「宿命」が1位と2位を前週に続いて独占し、“ヒゲダン”旋風を巻き起こしています。  かく言う筆者も、ある日、MTVから流れてきた「Pretender」に一発でやられてしまいました。とにかく、演奏、歌、曲、詞が、それぞれ高いレベルでバランスを保っていることに驚いたのです。  とはいうものの、特に奇抜なことをしているわけではありません。革新性を売りに未来の音楽を打ち出すのでもなければ、知識や理論を駆使してリスナーにレッスンをするわけでもない。それとは逆に、良い意味で、ただのポップスなのです。Jポップに馴染んだ耳ならば、琴線に触れるフレーズがそこかしこにある。その点では、安心して聴けるバンドだと言えるでしょう。  ただし、繰り返し聞いていくと、プレゼンテーションの瞬発力が異質なことに気づきます。歌の一言一句、演奏の一音に至るまで、キレ味が段違いだからです。  というわけで、筆者ももう30回ほどリピートした「Pretender」から、“ヒゲダン”がディテールに込めた熱量を見ていきましょう。

「Pretender」は令和初の名曲

 まずは、演奏から。リズムをキープする行為に、とてつもない説得力があるのですね。ザクザクと刻まれた8分音符が、歌っているかのように生き生きとしている。最もよく表れているのが、サビの<その髪に触れただけで>という箇所です。ボーカルの藤原聡は、この部分を一音ずつバラバラに聞こえるように歌っています。  楽器は、これに応える形でリズムの後ろ足を短く切り落としていく。すると、傍点を打つように、言葉が強調されるのですね。当然、メロディにもメリハリが出てきます。歌と演奏のベクトルが一致することで、シンプルなリズムが楽曲に意味を与える鼓動になり得ることを教えてくれるわけです。  こうした土台があるからこそ、歌メロとハーモニーのセンスも光るのですね。同じところになりますが、<その髪にふれただけで>から始まる、下降していくベースライン。このスムーズな開放感がたまりません。ほとんど定型句のようなコード進行なのに、古びて聞こえないのはお見事。  歌詞も韻を踏みつつ、きちんとストーリーの流れを保っていますし、そのあらすじの起伏を分かりやすく伝える曲線的なメロディと、ダイナミックな和音の使い方にはスケールの大きさを感じます。ただキーが高いだけでなく、役者的な表現力に優れている藤原聡のボーカルにも華がある。  ストリーミングチャートで11週連続1位になったのも納得。個人的には、令和初の名曲に推したい1曲ですね。  10月9日にはアルバム『Traveler』のリリースが控えている“ヒゲダン”。親しみやすさの裏に、ピリッと玄人の顔がのぞく。新時代にふさわしい、魅力的なバンドの誕生です。 <文/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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