実際に田舎から上京してきて、なにか感じたことはあったのでしょうか。

「一番記憶に残っているのは、上京したての頃におきた出来事です。都内の電車に乗っていたら、女装をした派手なおじさんが乗ってきたんです。私は驚いてしまって、二度見をしてしまいました。自分の実家であればそれこそ、あからさまに見られて笑われて町中の噂になります。子供が乗り合わせていれば、心無い言葉を吐かれていたかもしれません。ドキドキしながらおじさんを見ていました」
そのおじさんはどうなったのでしょうか。
「おじさんが車内に入ってきたときに、乗客は一瞬おじさんを見てびっくりしてはいましたが、二度見することもなくまた自分の世界に戻っていました。本を読んだり、音楽を聴いたり。おじさんもおじさんで、堂々と電車に乗っていました。その瞬間、私は思わずガッツポーズをしました」
結菜さんは笑いながらこう続けます。
「自分らしくいても、もう誰にも何も言われないんだってその時、確信しました。
祖母の言う『世間』が幻想だったことに気づき、上京してきてよかったと心から思いました」
その後、結菜さんは東京で新しい暮らしを満喫しました。同棲や朝帰りなど、祖母が聞いたら卒倒するようなことも楽しんだそうです。
「もともと人と少しズレたところがあったのですが、大学の友達や先生はそれすらも面白がってくれました。それよりなにより、
もっと個性的な人がたくさんいて、自分らしくいることの楽しさを学びましたね」
結菜さんは都会と田舎のギャップを噛みしめています。
「田舎が悪いとは思いません。実際に暮らしやすい面もたくさんありました。でも、合う合わないは確実にありますね」
結菜さんは自分の実家を振り返り、そう返しました。
「グローバル都市不動産研究所」の東京都への人口流入についての調査(2019年)によれば、女性の主な上京理由は「東京で暮らしたかったから」、「親元や地元を離れたかったから」。そして、全体の半数が「将来地元に戻る予定はない」と答えています。就職、転職、移住で「Iターン」「Uターン」などさまざまな施策が話題に上っていますが、東京への人口集中は加速しつづけそうです。
―シリーズ「
地方の闇/都会の闇」―
<文/瀧戸詠未 イラスト/カツオ>
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