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King Gnu、大ヒットの理由。芸大バンドのオシャレ感とベタさ

 昨年の紅白に初出場を果たした、男性4人組バンド「King Gnu」(キングヌー)。  ドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ)の主題歌「白日」の大ヒットに始まり、「飛行艇」(ANA)、「傘」(ブルボン)、「Teenage Forever」(ソニー)などがCMソングに起用され、一気にお茶の間に浸透しました。これらの曲を収録したニューアルバム『CEREMONY』(2020年1月15日リリース)がオリコンやビルボード・ジャパンのチャートで1位を獲得し、若者を中心に絶大な人気を博しているのです。
king Gnu

King Gnu

 とはいえ、紅白で初めて存在を知った人も多いはず。“最近まで何て読むのか知らなかった”という方のために、簡単にご紹介しましょう。  メンバーは、井口理(ボーカル、キーボード)と常田大希(ギター、ボーカル、ピアノ、プログラミングなど)の東京藝大出身の2人と、勢喜遊(ドラムス、コーラス)、新井和輝(ベース)。骨太なインディーロックを土台に、ジャズやクラシックの要素も取り込んだ意欲的なポップスを展開しています。自らを「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」と称している通り、新時代のごった煮サウンドで異彩を放つ存在なのです。
ceremony

最新アルバム「CEREMONY」

 このように、いかにも一部マニアックな音楽好きにウケそうなスタンスを保ちながら、同時にライトなリスナーの心もつかんでしまったKing Gnu。  こびることなくバカ売れした理由を、いくつか考えてみたいと思います。

①藝大ならではのオシャレ感

 まずは音楽面。ほかのJポップにはない、“ちょっとイケてる感じ”を演出しているのが、ひんぱんに登場する装飾音や経過音です。大ヒットした「白日」を聞くと、ベースラインが一拍ごとに半音ずつあがっていくゾワっとする進行や、ただの“ド・ミ・ソ”では割り切れないアンニュイな雰囲気が印象に残ります。  こうした、純粋無垢さとは対極の世界観を演出しているのが、装飾音や経過音と呼ばれるものなのですね。洋楽の有名どころでは、スティーヴィー・ワンダーやスティーリー・ダンあたりが分かりやすいでしょうか。  そうした技を駆使しながら、決して歌えるJポップからは外れない。そんなスリル感とバランス感覚が最大の特徴なのだと思います。

②破天荒なようでいて歌詞はマジメでベタ

 おとなびた作曲術を披露する一方で、意外にも歌詞が青臭いのが面白いところ。  たとえば、<誰かのために生きるなら正しいことばかり言ってらんないよな>(「白日」詞・Daiki Tsuneta)とか、<過ちを恐れないで 命揺らせ 命揺らせ>(「飛行艇」詞・Daiki Tsuneta)なんて、びっくりするぐらいにまっすぐです。きわめつけは、<等身大のままで生きていこうぜ 歳を重ねても>(「Teenager Forever」詞・Daiki Tsuneta)というフレーズ。  楽曲の構造や演奏は都会的でアヴァンギャルドなのに、歌っている内容が四畳半フォークみたいなので、なんか妙な気分になるのです。  これが彼らの目指すところなのか、マーケティングの面から必要に迫られたのかは分かりませんが、音と言葉が反目し合っていて、いいスパイスになっているんじゃないでしょうか。

③勢喜遊のドラムがすごい

 昨年2月、テレビ初出演の『ミュージックステーション』(テレビ朝日)で「Slumberland」を披露した際、勢喜遊のドラムに度肝を抜かれました。全身でリズムを“うたう”ような異様な躍動感は、個性的なメンバーの中でも群を抜いていました。  音楽に熱中する理由は人それぞれだと思いますが、理屈を超えて聞く人の身体を動かす力があるか。これが大ブレイクするかどうかの分かれ目なのだと思います。その点で、King Gnuは最高のドラマーを擁していると言えるでしょう。  様々なジャンルを手際よくまとめ、親しみやすいポップスに仕立て上げるKing Gnu。月並みですが、最近の若者は大したもんだなぁ。超優秀な彼らの今後に期待しましょう。 <文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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