東山紀之の最後の舞台は、苦難が降りかかる難役。「なんだかいつもと違う」と劇場で感じた理由
東山紀之が、ジャニーズ(その後、SMILE―UP.と改名)の社長になり、2023年の年内をもってタレント活動を引退すると発表されたのは、9月7日のことだった。
そのときの会見が波紋を呼び、あれよあれよという間に、それまでの社名はなくなり、会社組織も変更になり、東山は兼任する予定だった新会社の社長を辞退するという流れに。補償会社の社長業のみになる東山は、このまま芸能界を引退するのだろうか。
タレント東山紀之、最後の仕事のひとつとされている舞台「チョコレートドーナツ」が11月23日に千穐楽を迎える。10月8日から渋谷PARCO劇場で初日をあけ、東京、大阪、熊本、宮城、愛知と巡ってきた。
9月7日の事務所に関する会見の後、改めて会見が行われたのが10月2日。舞台の初日の1週間前という慌ただしい時期に、東山は会見をやっていたのだ。そこを逃すと舞台がはじまってしまい、会見を開くのが難しかったのだろう。
9月の会見のとき、筆者はフジテレビの中継を見ていた。東山が映ったとき、紹介クレジットが出て、そこに10月には舞台に出演というような(大意)文言があり、会見中継で、近い出演作のPRもするのだなあとぼんやり思ったものだ(フジテレビが気を利かせただけかもしれない)。
そして、もうすぐ東山の出演舞台があるのだと認識をして、公演を見てみようという気になった。エンターテナーとして生きてきた東山の最後の舞台出演を見てみたかった。
「チョコレートドーナツ」は、2012年に公開された映画の舞台化である。1979年、カリフォルニアに生きるLGBTQのカップルが、ダウン症の子どもを引き取る。それぞれ生きづらさを抱えている3人が寄り添って幸せに暮らしたいだけなのに、世間は偏見をいだき、3人を引き裂こうとする。胸を絞られるような物語である。
舞台版は2020年に初演されたが、コロナ禍で一部公演が中止になり、世間的にも作品をじっくり評価する余裕はないという不運に見舞われての今回の再演である。ところが今回は、東山の進退問題が……。
翻案・脚本・演出の宮本亜門は再演のパンフレットでこう語っている。“台本の谷賢一さんから代わったことや、東山さんの社長就任などで、上演が危ぶまれ、不安な日々が続きました”。谷は演劇活動におけるセクシャルハラスメントが問題になっていた。人生に様々な苦難が降りかかるのは、物語のなかだけではないところがなんとも皮肉である。
「チョコレートドーナツ」で東山紀之が演じるのは、主人公で、歌手を目指し、ショーパブで働いているルディ。ショーを見に来た検察官のポールとたちまち恋に落ちる。ポールを演じるのは、岡本健一の息子・岡本圭人。旧ジャニーズ、先輩後輩の共演である。
原作にも沿い、純粋によくできた物語なので、劇中劇のショーの場面の歌や踊りを楽しみながら、物語の深いテーマに思いを馳せ、登場人物の心情に心を寄せることができる。実際にダウン症の子供を子役に起用し、彼らののびのびとした演技には目からウロコが落ちる思いがした。
映画でルディを演じたアラン・カミングのイメージと東山紀之がかけ離れて過ぎてはいないかと見る前は思っていたが、それも杞憂(きゆう)に終わった。なんだか東山紀之がいつもと違ったのだ。




