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朝ドラ『あんぱん』、軍隊の暴力描写を「月曜だけ」に決めた理由。演出家が明かす“描く責任”と覚悟

 国民的作品『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんと、妻の暢さんの半生をモデルに描かれているNHK連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)。嵩(北村匠海)が兵隊として生活する姿が描かれた9日からの第11週「軍隊は大きらい、だけど」と、16日からの第12週「逆転しない正義」の“戦争編”では「観ていて苦しく、精神を削られながら見届けた」という視聴者も少なくない。
あんぱん

NHK『あんぱん』© NHK(以下同じ)

 中でも、勇猛果敢として知られる小倉連隊に高知連隊から配置換えされたことをきっかけに、先輩隊員・馬場力(板橋駿谷)たちから何度も暴力を受ける第51回のインパクトはすさまじかった。  戦時中のリアルを描いたシーンではあるが、それでも朝から嵩が理不尽に殴られ続ける姿に、“視聴リタイア”が頭に浮かんだ人のコメントもSNSで散見された。戦争の恐ろしさをここまで真っすぐに描いた狙いなどについて、本作のチーフ演出を務める柳川強氏に話を聞いた。(※本インタビューは2025年6月に実施されました)

暴力描写から逃げずに「月曜だけはやろう」

 まず嵩が何発も殴られるシーンはどのようにして生まれたのか。 「毎日殴られるシーンが続くため、やはり視聴者としても辛いと思います。とはいえ、軍隊での暴力から逃げて、やなせさんの半生を描くわけにはいきません。だから『月曜(第51回)だけはやろう』と決めました」  また、「軍隊は大きらい、だけど」では、ほぼほぼ宿舎内のみでシーンが撮られていたが、それにも狙いがあったという。
『あんぱん』チーフ演出の柳川強氏

『あんぱん』チーフ演出の柳川強氏

「軍隊は閉鎖空間です。加えて、暴力は当たり前で、食事も充実しているわけでもなく、人間がどんどん変わっていってしまう。やなせさんの著書内でも『軍隊での生活が続いていくと徐々に精神がやられていく』という趣旨のことも記されていて、そこは『忠実にやりたい』と考えて宿舎をメインにしました」

敵はいったい誰なのか?

 柳川氏の計算通りで、閉塞感や食糧不足などから隊員たちがどんどん正気を失っていく様には説得力があり、それと同時に「敵は誰なのか?」という疑問が芽生えた。柳川氏も「実のところ敵は暴力を振るう先輩だったり、食糧不足だったりします。『敵は内部にあり』ということを描きたかったので」と続けた。  とはいえ、本作で描かれていることの全てがやなせさんの体験したものではないと話す。 あんぱん「実は『敵に包囲された』というのはフィクションで、やなせさんの著書を読むと、終戦後には軍隊の仲間と慰安劇をやって楽しんだりなど、本当はもう少しのほほんと過ごしている場面も書かれています。敵に襲撃はされていないのですが、空腹に追い詰められたことは事実なので、そこは描きました」  嵩が戦地で経験したことはやなせさんの体験に加え、いろいろな日本兵が体験した出来事だったようだ。
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『あんぱん』で戦闘シーンを描かなかった背景
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