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「『あんぱん』を“面白かったね”で終わらせたくない」妻夫木聡の言葉に込められた意味。制作と俳優が共有した“覚悟”とは

 今田美桜が主演を務めるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)。国民的作品『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんと、妻の暢さんの半生をモデルにしたドラマとなっており、8月22日にクランクアップを迎えた。
NHK『あんぱん』

NHK『あんぱん』© NHK(以下同じ)

 9月26日の最終回を前に、制作陣としては今どのような心境なのか。『あんぱん』の制作統括・チーフプロデューサーを務める倉崎憲氏に、本作で描きたかったこと、クランクアップを迎えた今の心境などを聞いた。

妻夫木聡の印象的な言葉

 改めて本作を制作するうえでの心持ちを聞くと、倉崎氏は軍隊時代の柳井嵩(北村匠海)の上官・八木信之介を演じた妻夫木聡が口にした「『あんぱん』を観て『面白かったね』で終わらせたくない」という言葉から振り返る。 NHK『あんぱん』「妻夫木さんのこの言葉がとても印象的ですが、その気持ちは本当に制作陣も強く持っていました。朝ドラを日常生活の一部として楽しみ、前向きな気持ちでその日をスタートしてもらえれば、とは思っています。ただ、今年は戦後80年ということもあり、『あんぱん』という企画を始めました。やなせさんの実体験やアンパンマンが誕生した背景などを描くことで、やなせ夫婦が残したメッセージも一緒に受け取ってもらえれば嬉しいです」

のぶが軍国主義に染まった背景

『あんぱん』というタイトルではあるが、嵩ばかりがメインの作品ではない。のぶの軌跡も映し出されているが、本作で描きたかったことについて、「柳井夫婦の物語ではありますが、本作の主人公はのぶです。やなせたかしさんの妻ということだけではなく、戦争を経験した1人の女性として、その葛藤や悩みなども描きたかったんです」と答える。 「『お国のために』ということが戦時中は絶対的な正義とされていましたが、敗戦後にはその正義は逆転しました。実際のところはわかりませんが『暢さんも戦時中は周囲の人と同じようにその正義を信用していたのでは? だからこそ価値観が変わった後は新聞社に入って記者として自分でちゃんと見聞きしないといけないと思うようになったのでは』という仮説を立て、のぶを軍国少女として描きました。  そして、一度軍国主義に染まった少女が周囲に惑わされることなく、嵩と一緒に“逆転しない正義”をいかにして見つけていくのか、という物語にしました」 NHK『あんぱん』 のぶは軍国少女として描かれた稀有な朝ドラヒロインである。それゆえに誰もが時代の空気に流されて軍国主義に染まる可能性が示されていたように思う。加えて、一度は軍国主義に染まった人が、いかにして“正義”を見つけるのかに注目したくなる。のぶが主人公だからこそ、戦争、そして正義について考えたくなるのだろう。
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「絶対描きたかったシーン」は
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