ち、ちんげ!?娘が授業参観でブッ飛び発言【シングルマザー、家を買う/42章】

シングルマザー、家を買う/42章>

 バツイチ、2人の子持ち、仕事はフリーランス……。そんな崖っぷちのシングルマザーが、すべてのシングルマザー&予備軍の役に立つ話や、役に立たない話を綴ります。


しっかり者の娘がやらかした珍事件



 我が家の娘はかなり要領が良い。早くに母親である私が離婚したということもあり、状況を飲み込む早さも尋常ではない。長女で、しかも弟に障がいがあるということもあって、面倒見もかなりいいのだ。

 そんな娘が小学校に入学することに関しては、何の心配もなかった。実際に、学校に入って数カ月で行われる家庭訪問では、「娘さんは授業態度もとてもいいですし、忘れ物もありません。とてもしっかりしていて、動き回る男の子をしっかりと注意してくれるので、とても頼りにしています」と言われたのだ。

 しかし、子育てはそんなに甘いものではない。事件はその数週間後にある、授業参観で起きた

 娘が通う小学校は、木、金、土の授業はいつでも授業参観できるように設定されている。平日忙しい親でも、土曜日に見ることができるのでとても画期的だ。しかし、我が家には土曜日に休みの息子がいるので、仕事を調節して平日の午前中に顔を出すことにした。

 娘のクラスに足を踏み入れると、1時間目ということもあり、見に来ている親は4名ほど。保育園から同じクラスになった子が10人もいるのに、そこには知らないママたちしかいない。まぁ、普通に考えて保育園出身のママは、この時間はバリバリ働いているから、いるわけはないのだが。

 まだ入学したばかりで知らないママさんたちを横目に授業を聞いていると、先生が言っていた通り、娘はよく発言し、よく手を挙げ、ガタガタと机を揺らす男子生徒には何か小声で注意をしている。いたな、こういう子。娘も私が来たことがうれしいようで、後ろを向いては手を振ってニコニコとしている。こういう表情を見ると、学校行事はフル参加してあげたいと思う。フリーランスの仕事は、こういったことに融通が利くので、とてもうれしい。

国語の時間、大きな声であの言葉を…



 2時間目は国語。フリーライターの娘だからこそ、ここは頑張ってもらいたい。黒板には○○は△△です。という例題があり、この○と△に言葉を入れるという問題になっている。さぁ、考えてみましょうという掛け声とともに、子供たちの手が勢いよく挙がる。

 そこで先生から指名された生徒たちは、「パンダは動物です」や「お菓子はおいしいです」など、とてもかわいらしい答えを言っている。そこに、娘は椅子から身を乗り出し、一生懸命手を挙げている。きっとデキる娘のことだ。模範解答を言ってくれるに違いない。そこでついに先生が娘を指名。娘はニコニコして椅子から立ち上がると、とても大きな声でこう言ったのだ。

「おはなは、ちんげです!」

シングルマザー、家を買う/41章 ん?

 私はあのときほどザワついた教室を見たことがない。みんな、娘が発した言葉を理解しようと、必死に脳みそを高速回転させている。私も一瞬、頭の中が真っ白になった。ほかのママの表情なんて、確認している余裕はない。

 ち、ちんげ? チンゲン菜とかじゃなくて? レンゲ草とかでもなくて? なに? え、なに!? なんなん!?

 すると、一瞬固まった先生が、口を開いた。

「よ、吉田さん、もう一度お願いします」

 おい! もう一度言わせるのかい!? ヤツは確実にちんげって言ったんだ! 繰り返させるな!

 すると娘はニヤニヤしながら大きな声でもう一度言ったのだ。

「おはなは、ちんげです!」

 そうか。ちんげなのか。もはや納得するしかないと決めて娘をみると、周りの男子たちがくすくすと笑っている。もしや、ヤツらのせいか! いや、でもヤツらが吹き込んだとしても、発言したのは娘だ。この瞬間、体中が恥ずかしさで熱くなることを感じた。人間、恥ずかしすぎるとこんなに汗をかくんだ……。

 いや、でも待て。まだあの娘の親が私だってバレていないはず。だって、ここには知らないママしかいないのだから! 正々堂々としていれば、大きな声でちんげと言った子の親は私だとバレないはず!

 そう暗示をかけて必死にクールを気取っていると、先生もどうしていいかわからなかったようで、「ちんげ……ちょっとよくわからないですね。ハイ次!」と鮮やかにスルーしていったのだ。うん。私が先生でもそうするしかなかったと思うよ……。

「ちんげは、おおきなこえでいわない」



 そして休み時間。ちんげと言った娘は、勢いよく私のもとに駆け寄ってきた。おい、バレるじゃないか。

 もうどうしようもなく、白目で娘を抱きとめ、「ちょっと」と声をかけて廊下に出し、ちんげ事件の顛末を聞くことにした。

「ねぇ、ちんげって何か知ってるの?」

「え~! 知らない! でも、○○(男子の名前)が言えっていったから~(ニヤニヤ)」


“おい、その男子連れてこい!”と心から思ったけど、そこは大人な私。

「あのね。それは人前で大きな声で言わないほうがいい言葉なの! わかった?」

 もはや意味も伝えず、ただただ私の気迫に押された娘は静かに首を縦に振り、ゆっくりと席に戻っていった。

 なぜ、なぜこの日に照準を合わせて娘はそんなことを言ったのか……しかし、時間は戻せない。

 その日の夜、娘の日記帳には「ちんげは、おおきなこえでいわない」と力強い文字で書かれていた。

シングルマザー、家を買う/41章_2 ……娘はまたひとつ、賢くなったようだ。

<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ、フリーライター。西野カナなどのオフィシャルライターを務める他、さまざまな雑誌で執筆。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘は“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky

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◆吉田可奈

80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、音楽ライターを目指し出版社に入社。その後独立しフリーライターへ。現在は西野カナなどのオフィシャルライターを務め、音楽雑誌やファッション雑誌、育児雑誌や健康雑誌などの執筆を手がける。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘はネットで見かけた名言“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky

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