真実は、彼の妻からもたらされた。
「知らない携帯からかかってきました。いつもなら出ないんですが、うっかり出てしまった。『〇〇の妻ですけど』って彼の名字が名乗られて。
奥さん、いろいろ言っていましたけど、彼が結婚していたという衝撃で、内容はほとんど覚えていません。電話を切って彼にすぐかけたんですが、つながらなかった」
しばらくたって、彼からかかってきた。彼は妻が暴露したことを知らなかったようだ。ミワコさんがそれを告げると彼は絶句したという。
「すぐ私のところにやってきました。『ミワコのことが大好きで、いつか言わなければと思いながら言うことができなかった』と泣くんです。37歳と言っていた彼が実際は40歳で、結婚10年、9歳と6歳の子がいて、実は今も妊娠中だと聞かされました」
彼女は号泣しながら彼を殴った。彼は殴られたまま黙っていたが、彼女はそのまま追い出した。
そして数日後、彼女は激しい腹痛に見舞われて自ら救急車を呼んだ。卵巣破裂だったという。激しいストレスで卵巣破裂というケースは何例か聞いたことがある。彼女の場合もそうだった。
「入院中、彼から連絡がありました。私も心細かったので、入院していることを話しました。そうしたら彼、毎日、朝に晩に見舞いにきてくれた。退院のときも車を出して家まで送ってくれたんです」
彼の優しさにほだされ、ミワコさんは彼との関係を続けてしまう。彼は「今度こそ、離婚するから」と言ったが、妊娠中の妻を放り出せるわけがない。優柔不断な優しさを憎んだが、彼のことは憎めなかったという。
「退院して数ヶ月後、子どもが生まれたことを奥さんからのLINEで知りました。たぶん、彼と私がまだつきあっていることを知っていたんでしょうね。ご丁寧に生まれたばかりの赤ちゃんの写真まで貼られていた。
『生まれたって奥さんからメールがきた。さようなら』と彼にメッセージを送って、私から別れました」
彼は何度も彼女の部屋にやってきたが、彼女は入れなかった。自分から別れなければ、いつまでもずるずると関係が続いてしまうとわかっていたからだ。彼女自身も、彼を本当に好きだったから。
既婚であることを知らずにつきあったという例は少なからずある。ミワコさんの彼同様、最初は軽い気持ちだったが、だんだん本気になり、言わなければいけないと思いながら言えなかったというケースが多い。だが、真実を知ったときの女性のショックは計り知れない。
別れてから1年以上たつミワコさんは、その後、引っ越して心機一転したつもりでいたが、やはり今でも彼のことを思い出すという。
「言えなかったとはいっても2年半ですからね。あの時間が私にとって幸せだったからこそ、それがウソに裏打ちされていたと思うと、悔しくてたまらない。一方で、まだ彼をひきずっている自分もいて複雑です」
本気で好きだったからこそ、なかなか立ち直れずにいるのだ。
<文/亀山早苗>
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