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ヒット中の映画「若草物語」が“朝ドラっぽい”と言われる深いわけ

 傑作青春映画『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督による長編映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(全国で公開中)が評判です。  原作や、これまで幾度となく映画化されてきた作品に比べ、本作で特に際立った特徴となっているのは、「四姉妹それぞれの生き方を肯定する」描き方でしょう。
ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語2

次女・ジョー(シアーシャ・ローナン)

四姉妹のそれぞれの生き方が肯定される

 なかでも興味深いのは、原作を読んだことのない人などによる「朝ドラみたい」という呟きがSNS上で多数見られること。ただし、厳密に言うと、「今の朝ドラっぽい」が正確な表現ではないかと思います。  若草物語の四姉妹は、美しく優しく家庭的な長女・メグと、男勝りで活発で行動力がある、小説家志望の次女・ジョー、内気で恥ずかしがりやで、ピアノを愛する三女・ベス、絵を描くのが好きで生意気でおしゃまな四女・エイミー。四人が見事に異なるタイプで、それぞれに魅力的ですが、原作での物語の中心は間違いなく次女のジョーとなっています。 ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 2 子どもの頃などには、「自分自身が長女だから」とか「三女だから」といった具合に、自身の姉妹のポジションと重ね合わせて読んだ人もいたでしょう。しかし、おそらく多くの人は次女・ジョーが一番好きで、「結婚より仕事。自分の力で自分の道を切り開いていく生き方」こそ正しく、一番素晴らしいと思ったことがあるのではないでしょうか。余談ですが、自分が小学生の頃、演劇クラブで『若草物語』をやったとき、ほとんどの女子がジョー役に手を挙げたほどでした。 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』も、物語は基本的にジョーの視点で進みます。しかし、メグのように「好きな人と結婚して貧しくとも共に暮らす幸せ」も、ベスのように「多くを望まず、足ることを知り、慈愛に満ちているからこそ命が短かった」生き方も、エイミーのように「家族のこと、経済を考え、裕福になる生き方を追い求める」生き方も、それぞれ肯定しています。

この十数年で、朝ドラのヒロイン像が変わってきた

 「朝ドラっぽい」と感じる人が多数いるのは、まさにこの点でしょう。しかし、このように朝ドラで女性の多様な価値観・生き方を肯定する描き方をするようになったのは、放送時間を変更した『ゲゲゲの女房』(2010年前期)より少し前、朝ドラ低迷期に一部熱狂的支持者を獲得した『ちりとてちん』(2007年後期、主演:貫地谷しほり)あたりから。
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 朝ドラの長い歴史の中で主流だったのは、『おはなはん』(1966-67年)から脈々と続く、明るく元気でちょっとドジで、誰にでも愛されるヒロインたち。そして、そんなヒロインが周りを巻き込んでいく「ヒロイン至上主義」の物語でした。しかし、『ちりとてちん』では本来、そういった生まれながらの主役キャラの陰になってしまっている、日の当たらないほうの存在がヒロインとして描かれました。  さらに、明るく元気で猪突猛進なヒロインの「毒」の面が描かれた『カーネーション』(2011年後期、主演:尾野真千子)以降は、朝ドラ的価値観の多様化が急速に進みました。
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 ヒロインが陶芸に身も心も焦がし、結婚が破綻した後、新しい夫婦・家族の在り方を模索した朝ドラ前作『スカーレット』(2019年後期、主演:戸田恵梨香)も、まさにその系譜と言えるでしょう。 『ストーリー・オブ・マイライフ』のジョーと同じく、『スカーレット』の喜美子もまた、自分の好きな道を歩むことを選びます。その決断に後悔はないものの、愛する人や大切な人を失ったときに、どうしようもない孤独に襲われることもあります。『ストーリー・オブ・マイライフ』も『スカーレット』も、ジョーと喜美子だけでなく、姉妹のそれぞれの決断と、その結果が描かれ、そこにはやはり苦い思い出や辛い経験もありますが、どれもそれぞれに間違いではないのです。
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姉妹の関係が変わっていく
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