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セックスレスに悩む夫婦は「一緒に長時間の散歩をしてほしい」宮台真司

 夫婦間では月に1回以上SEXしなければ“セックスレス”と、性に関する学術団体が定義している。レスへの不満や焦りを感じる人がいるのは当然だが、夫婦や家族のありかたが多様化する今、その定義を真に受けてやみくもにレスの解消を目指しても、いい夫婦関係は築けないのではないか。
セックスレス

※写真はイメージです

レスで社会の劣化が進む今、目指すべき豊かな性愛の形

 セックスレスからは、逃れられない可能性が高い。それは一見、夫婦や個人の問題に思えるが、社会学者の宮台真司氏は、レスが人と社会の劣化の現れだと警鐘を鳴らす。 「この30年間、人々の性的な退却が進む一方です。特に男は絶望的。個々人がSEXしようがレスになろうが、どうでもいいけど、SEXレスが、共感能力のない感情的に劣化した人間や、眩暈を許さない劣化した社会の、現れなので、非常に危機感を抱きます」  ’14年の「男女の生活と意識に関する調査」では、日本の夫婦のセックスレス割合が44・6%と、’04年の31・9%から増加。背後に、社会の希薄化が潜んでいるという。 「’90年頃から『性欲がない』という男子がキャンパスに現れはじめ、並行して、安心・便利・快適を求め、空気を読むことを優先してどう振る舞えば得なのかばかり考える者が増えます。仲間の連帯が失われ、友達と体験情報を交換したり、先輩から性的知恵を教わるつながりも消えます。人は本来SEXでトランス状態になってツラい現実を忘れるのに、表面的関係の中でSEXで“眩暈”を体験することもできなくなる。それが“リア充”という言葉に示されます。SEXはリアルからの逃避なのにね」  当時、学生だった彼らもいまや40~50代。現代の中年夫婦がセックスレスに陥ることも頷ける。 「雑誌などを読んで、『どうやって女をイカせようか』など頭で考える状態は、性愛的に貧しい“コントロール系”。クズの始まりです。ワークショップで女たちに話すのは、①過去の男とのセックスの話をすると不快になる男 ②女を所有物化する男 ③なにかと母親を基準にする男、この3条件のどれかに当てはまる男はコントロール系だから切り捨てろということ。9割を即座に切り捨てられるので、時間を無駄にせずに男を探せます」

相手の快楽とシンクロしアメーバのようになる

 それでは、いいSEXをするために重要な要素は何なのか。 「第一に、快楽にしろ痛みにしろ、相手の感覚をダイレクトに自分の感覚として味わえること。シンクロと呼びます。第二に、目の前の相手の目線や体温や動きに反応して自然にカラダが動く力。僕の小一の息子は虫を前にすると自動的に体が動いて気がつくと捕まえているけど、それと同じ。アフォーダンスと呼びます。両方あると、相手とアメーバのように融合する“フュージョン系”のSEXができます。コントロール系の男は女を道具にしますが、フュージョン系は女にすべてを忘れさせます。今はそれがほとんどの男にできないのです」 男女 カップル 夫婦 恋人 だから、男は女をメンター(精神的指導者)として仰げ、と続ける。 「女は、コントロール系の男とのSEXに不全感を抱く。女は元来SEXでトランス状態に入りやすいからです。トランスすると、時間感覚を失い、しばしば号泣します。『女は飛び、男は女の翼で飛ぶ』。このフュージョンSEXの極意を、僕もかつては女から学びました」  レスに悩む夫婦に、宮台氏が送る処方箋とは。 「夫婦が性愛的にシンクロしたいなら、SEX以前に一緒に長時間の散歩をしてほしい。ぎこちなかった歩調や呼吸が次第に合い、共通の時空に二人が包まれます。日本は核家族で子供中心の文化だから、日を決めて子供を誰かに預けて夫婦の時間をつくり、出会った頃を再現する努力もオススメです」  社会という大きな視座でセックスレスを考えれば、夫婦の絆を取り戻す大いなる一歩になるはずだ。
宮台真司氏

宮台真司氏

【社会学者・宮台真司氏】 ’59年、宮城県生まれ、京都府育ち。社会学者。映画批評家。東京都立大学教授。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。権力論、国家論、宗教論、性愛論などで30冊を超える著書。独自の映画評論でも注目を集める。映画評論は3冊 ―セックスレスを解消するには?― <取材・文/週刊SPA!編集部>
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