「彼氏に電話して『今から出てくから迎えに来て』って。確か夜中の2時くらいでしたね。親も寝静まった頃に荷物をまとめてこっそり出ていきました。うちのマンションの駐車場に彼が車を止めていて、助手席に乗り込んだと同時に母親の金切り声が聞こえたんです」
神谷さんが振り向くと、必死の形相をした母親が車に向かって走ってくるところでした。そして、
少しだけ開いていた車の窓に手を引っかけて「行っちゃ駄目! 戻ってきて!」と泣きながら説得してきたのです。
「母の声には構わず、彼は車を走らせました。それでも手を離さない母を、彼も振り落とそうと躍起になっていて。
駐車場で母はそのまま暫く引きずり回されていました」
想像するだに余りにも壮絶すぎる状況です。
数分間の格闘の末に神谷さんが「もうやめてー!」と絶叫し、ようやく車はストップ。当然母親は手足に怪我を負っていたので病院に行き、関谷さんもその日は家出を思い止まりました。
その後すっかり目が覚めた神谷さんは、紆余曲折ありましたがその彼氏と別れることができました。結局高校は辞めてしまいましたが資格を取って働き始め、今では3人の子どものお母さんになっています。
「
まさかあんなに母親が自分に対して必死になってくれるなんて思わなかったんです。あれからは母親の愛情は疑ったことはありません。自分の子どもたちがちょうど思春期になった今は、あの時の母の気持ちが痛いほどわかります。娘があんな彼氏を連れてきたら、全く同じことをしちゃうだろうなぁと思いますよ」
娘がどんな男を連れてくるのか、今は神谷さんが心配しきり。自分の二の舞にならないことを祈る、と真剣な顔で呟いていました。
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人生最大の大ゲンカ―
<文/もちづき千代子 イラスト/やましたともこ>
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フリーライター。日大芸術学部放送学科卒業後、映像エディター・メーカー広報・WEBサイト編集長を経て、2015年よりフリーライターとして活動を開始。インコと白子と酎ハイをこよなく愛している。Twitter:
@kyan__tama