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米津玄師「感電」が1位独占、なぜこんなに次々と売れるのか

気の毒になるぐらい聴き手にサービスしてくれる

 そのうえで、ひとつ注文をつけるとすれば、やはり「感電」は“日本語のポップス”とは違った形式で聴いてみたかったということです。とがったアレンジに比べると、まだボーカルがカラオケフレンドリーに聞こえてしまう部分があるのですね。もっとも、それこそが米津人気の要因のひとつなのでしょうけど、どこかであえて聴き手を突き放した、イジワルな米津玄師も見てみたいなと思います。  もちろん、ひとつ大ヒットが出ると、似たものを求められる世知辛い事情もあるでしょう。それは米津玄師に限らず、星野源だってあいみょん(25)だってOfficial髭男dismだって同じこと。いまの売れっ子に共通するのは、注文通りに納品する力なのです。  だからでしょうか、彼らの音楽を聴いていると、肩が凝ってしまうときがあります。仕事や作業の労苦がにじんでいるからなのですね。少し気の毒になるぐらい、1曲の中で聞き所となる心地よいサービスフレーズがふんだんに盛り込まれている。

米津玄師の“くだらない曲”も聴いてみたい

 ポップスからはみ出なかった「感電」も、そんな気遣いのせいで、いまいち爆発しきれなかったのではないだろうか。老婆心ながら、もっとハジけたいだろうに、なんて思ってしまいました。  制約を忘れてリラックスした状態で思う存分にふざけたら、また違った一面が見られるのではないか。一定のクオリティを保ちつつ、作風を統一させる資質の高さに感心する一方で、意外と振り幅は狭いのではないかという気もします。拍子抜けするほどくだらない曲があったっていいのに。  優秀な職人としての彼を守るためにも、どこかで“ムダな遊び”が必要なのではないか。  律儀に脱線する「感電」に、感心しつつ、どこか寂しい気もするのでした。 <文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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